概要とあらすじ
1947年のメアリ・ウェストマコット名義6作中4作目。
元教師のヒュー・ノリーズのもとに、ジョン・ゲイブリエルの使いがやってきた。ゲイブルエルは死にかけており、ヒューに会いたがっているという。しかもその使いが言うには、多くの人に崇拝され、愛され、尊敬される伝説的人物、ファーザー・クレメントこそジョン・ゲイブルエルのことだそうだ。
ヒューの知っているゲイブルエルは、策謀家で日和見主義者のどうしようもないやつだった。とても尊敬されるべき人物ではない。興味を抱き、ヒューはゲイブリエルに会いに行くと、ゲイブリエルはヒューにイザベラの最期の場面について話し始める…
みどころ
しっとりした文章がいい感じです。第一章の展開は、完全に昼メロですね。ですがそれがいい。第二章以降は登場人物たちのキャラが楽しいです。ジョン・ゲイブルエルももちろんですが、その他の人物もみんな個性的。とても楽しく読むことができました。
しゃれた表現が多かったような印象です。特にイザベラ周りの表現は、本当におとぎ話の中に紛れ込んだような感じを受けます。うっとりとさせられました。それだけに終盤の展開に驚きましたし、そこからいろいろと考えさせられます。
感想
かなり面白く読むことができました。展開も結構スリリングで、驚かされるシーンがあります。ページをめくる手が止まりませんでした。
それだけでなく、読み終わった時の余韻もすごいです。「人間の本質」がテーマだと思います。ヒューから見ると、ジョン・ゲイブリエルは策謀家の日和見主義者ですが、それが彼の本質だったのか。イザベラはゲイブルエルの中に、ファーザー・クレメントの片鱗を見たのか。
それと同時にイザベラの本質は何だったのか。彼女の評価は人によって全然違います。読者である私は、ヒューの目を通じてイザベラを見ますので、聖女のような印象を持ちます。ですがもしかするとごくごく一般の恋愛感情を持ち、愚かな選択をしてしまう普通の人物かもしれません。
最後のゲイブリエルの言葉も、その解釈はいろいろ考えられます。言葉そのままなら、悔い改めたということでしょう。ですが「勝ち誇ったような声」は、かつての小物のゲイブリエルのように見えます。するとその言葉はむしろ逆に、救いを求めるようにも聞こえるのです。
様々な解釈が考えられるので、読み終わった後、しばらくモヤモヤが止まりませんでした。その人がどういう人なのかなんて、わかるわけないということなんでしょう。それが本人だとしても。
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