概要とあらすじ
1970年発表のノンシリーズです。クリスティーの80歳の誕生日を記念して発表された、長編としては61作目の作品です。
外交官としてエリートコースから外れたスタフォード・ナイ。ジュネーブ行きの飛行機が濃霧のためフランクフルトに着陸し、足止めを食うことになった。そこで見知らぬ女性に声を掛けられる。彼女が言うには「自分はジュネーブに行かなくてはならなかった。このままでは殺されてしまう。なので他人に成りすまさなくてはならない」
スタフォード・ナイは、ばからしいと思いながらもその話に興味を持った。そして彼女の頼みを受けることになり、彼のマントとパスポートを彼女に貸してやることに…
みどころ
良くも悪くも子供っぽいスリラー小説です。いかにも怪しい女性。各国の主要人物が会する組織。悪の黒幕と謎の集団。天才科学者によるある計画。いったい何がどうなるのだろうかと、わくわくします。子供心をくすぐられる感覚ですね。
若者たちの暴動には影の首謀者がいて、それが現実に存在する人物の息子かもしれないという、現実とフィクションの間を揺れ動く感じも面白いです。
「まえがき」があって、その辺の創作に関する舞台裏を明かしてくれています。時事的な内容から題材をとっていますので、その時代の世相や、クリスティー自身のやや偏った考え方もうかがい知れて、その点でも興味をそそられます。
登場人物
メアリ・アンことレナータ・ゼルコウスキの、謎の人物感がいいです。マチルダおばさんの陰の立役者っぽいところも面白い。主人公のスタフォード・ナイも面白そうな人物でしたが、だんだん存在感が薄くなってしまいました。ちょっと残念です。
あとはマチルダおばさんの看護をしているのがミス・レザランです。これは「メソポタミヤの殺人」で記述者となるエィミー・レザラン看護婦でしょうか。34年の時を経て再登場です。あまり彼女の活躍はありませんが、クリスティーの遊び心がうれしいです。
感想
風呂敷の広げ方は立派ですが、そのたたみ方があまりにも中途半端です。悪の組織の概要がわかるのが遅すぎませんかね。ADFSJの5つの組織があることがわかるのですが、それが3/4のところ。その時点ではまだ1つの組織のことしかわかっていません。なら風呂敷がたためないのが丸わかりです。
三章あるのですが、第一章は面白かったです。第二章は話が急展開して、何やら不思議な感覚です。そして第三章は… スタフォード・ナイやメアリ・アンはどこに行ったのでしょうか。彼らの活躍が見たかったのに…
Jの正体や、組織のなかの裏切り者というのも面白いのですが、それって何かしらの伏線があって初めて効果があります。それが何もなしに出しては、単に驚かしただけで正直興ざめです。
いやぁ、第二章まではどうなるのかと期待していたんですよ。それが投げっぱなしエンドみたいな感じになるとは…結局、メアリ・アンはどっちの味方だったのでしょうか。そこだけでもはっきりさせてもらえないでしょうか。
似たような感じの作品では「ビッグ4」がありますが、そちらの方がまだ面白かったように感じました。まぁ、クリスティー80歳記念作品ですから、そういうものとして受け止めるのがいいのでしょうかね。
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