概要
1939年にアメリカで発行された The Regatta Mystery and Other Stories から、「クリスマス・プディングの冒険」に収録済みの「夢」を除いて「二度目のゴング」を収録した、日本独自で編まれた短編集。ポアロもの5篇、パーカー・パインもの2篇、マープルもの1篇、幻想小説1篇の計9篇。
別の作品の元ネタとなる短編が多かったです。なのでこの短編集独自で楽しむというより、その作品と見比べて、その違いを楽しむのがいいのではないかと思います。
一番面白かったのは「ポリフェンサ海岸の事件」です。「パーカー・パイン登場」の前半に出てくるような、後味の良い楽しい話です。
レガッタ・デーの事件
アイザック・ポインツ氏の集まりで、高校生の娘イーブがポインツ氏に賭けを申し出る。ポインツ氏の持つダイヤモンドを盗むことができるかどうか、というものだ。賭けはイーブの勝ちに終わり、ダイヤモンドを返そうとしたところ、そのダイヤモンドがなくなってしまい…
感想
「意外な人物が犯人でした」だけの単純な話かと思わせておいて、なるほど、ちゃんとその人物が犯人である根拠もありました。言われてみればなるほどそうなりますよね。探偵はパーカー・パインですが、これってポアロでよかったのでは?
バグダッドの大櫃の謎
リッチ少佐のパーティーの翌朝、従僕のバーゴインがパーティー会場を掃除していた。その隅にあった大櫃を開けると、中にクレイトン氏の刺殺体があった。クレイトン氏はパーティーに参加できなくなったと、前日連絡のために屋敷には寄っていた。しかしリッチ少佐が不在のため、書置きを残して出発していたはずだが…
感想
「クリスマスプディングの冒険」中にある「スペイン櫃の秘密」の元ネタです。内容もほぼ同じ。こちらの方がより短いので、切れ味があったように感じました。ただミセス・クレイトンに対する描写は「スペイン櫃の秘密」の方が筆が尽くされていたので、一長一短と言ったところでしょうか。
意外な犯人ですが、理由を聞いてちゃんと納得できる作品です。
あなたの庭はどんな庭?
アミーリア・バロウビーより家庭内の問題で悩みがある、と手紙で相談を受けたポアロ。いつでも伺うと返事を出したが、なぜかそれっきり音沙汰がなかった。しかしその五日後新聞で、ミス・バロウビーが亡くなったことを知って…
感想
ポアロが事件に乗り出すきっかけとなった手紙のくだりは、「もの言えぬ証人」とほぼ同じです。ですが内容は全く違います。同じ材料を使って別の料理を作ったような感じですね。
「あなたの庭はどんな庭?」は、苦いストリキニーネをどうやって飲ませたかという謎の鍵が、庭の描写に隠されていたという本格的な内容です。ですが、ややアンフェアかな。確かに書かれてあるけどなぁ…という感じでした。
ポリフェンサ海岸の事件
ミセス・チェスターと息子のバズルは仲良し親子だった。しかしバズルが婚約したベティ・グレッグのことがミセス・チェスターは気に入らない。二人の間がギクシャクしているところに、また別の女性があらわれて…
感想
いかにもパーカー・パインという話。「時代遅れ」に対するチッペンデールの椅子のたとえなど、面白い表現がありました。こういう話なんだろうなぁ、とオチの予想をしていましたが、結末はそれとは少しずれていました。読後感はとても良いです。マドレーヌ熱にかかるバズルが面白い。
黄色いアイリス
謎の女性から救いを求める電話がポアロにかかってくる。状況がよくつかめないまま、指定のレストランに向かったポアロだが、そこで大実業家バートン・ラッセルのパーティーの仲間入りをすることになる。そのパーティーに参加している女性が電話してきたと思われるのだが…
感想
「忘れられぬ死」の元ネタです。とはいえ、その読み心地は全然違います。「忘れられぬ死」はじっとりしたしめやかな話でしたが、「黄色いアイリス」は短編ならではの、スパッとした切れ味があります。どちらも面白いですが、終わり方は「黄色いアイリス」の方が好みかな。
ミス・マープルの思い出話
ローズ夫妻はクラウン・ホテルに滞在していた。彼らはドア続きの二つの部屋を取っていた。ローズ氏は仕事の書き物をしていて、ミセス・ローズは隣の部屋で先に休んでいた。ローズ氏の仕事が終わり、隣の部屋をのぞいてみると、ミセス・ローズは胸を一突きされて亡くなっていた…
感想
「出入りした」という言葉がトリック(?)のキモなんでしょうかね。少しややこしい話ですが、図をちょっとかいてみると理解できます。ですが、これってメイドの証言をきっちり取っていないことが混乱の原因ですよね。計画的なようで、行き当たりばったりですし、なんだかなぁという感じです。
仄暗い鏡の中に
親友のニールの家に滞在した私は、鏡越しに背後のドアがゆっくり開かれるのを見る。そこには美しい女性が、顔に傷のある男に首を絞められているところが映っていた。驚いて振り返ると、そこには衣装戸棚があるだけ。幻覚だろうと考え食事に向かうと、そこで紹介されたニールの妹が、先ほど見た首を絞められた女性だった…
感想
タイトル通り「仄暗い」トーンで話が進みます。霊的な話からメロドラマ展開、そして…。なるほど、そういうオチね、と感心しました。抑えられた筆致もあって、なかなか怖かったです。ですが、最後の予定調和なやつはどうかなぁ…と感じました。まぁ、それでもいいっちゃいいんですけど。
船上の怪事件
船旅を楽しんでいたポアロ。乗り合わせたクラパートン大佐は、ミセス・クラパートンに頭が上がらない。ミセス・クラパートンの旦那に対するあまりにも度が過ぎる態度に、他の乗客たちは少々眉をひそめていた。そんな折…
感想
船上というシチュエーションと、様々な乗客たちの思惑が微妙に絡み合い、「ナイルに死す」の雰囲気があります。何が起こるのかとハラハラします。ただ、犯人の仕掛けるトリックはあまりに子供だまし。トリックがしっかりすれば長編にも耐える話だと思いました。いや、それだと普通に「ナイルに死す」になるかぁ。
二度目のゴング
食事の時間になったのに、時間に厳しい当人のリッチャム・ロシュがあらわれない。ポアロと家族のものはリッチャム・ロシュがいるはずの書斎に向かうが、ドアにはかぎが掛かっており、返事がない。ドアを破って中に入ると、そこには拳銃自殺をしたリッチャム・ロシュの姿が…
感想
「死の鏡」の原形。「死の鏡」よりは登場人物が絞られていますが、それでも多くてなかなか把握が難しいです。メモを取りながら再読して理解しました。内容的にはほとんど同じ感じです。「二度目のゴング」というタイトルは素晴らしいのですが、それに付随する論理がお子様じみている感じがします。
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