概要
1948年のポアロ長編33作中23作目。第二次世界大戦後に書かれ、アガサ・クリスティーの戦争に対する考え方が垣間見える作品です。また、「杉の柩」「ホロー荘の殺人」と合わせてメロドラマ三部作とする向きがあるほど、恋愛と推理が融合した作品になっています。
あらすじ
百万長者のゴードン・クロードは、亡くなる直前に若い女性のロザリーと結婚し、その遺産を全て彼女に残した。ゴードンの親類たちは、それまでゴードンの庇護のもとにあったため、窮地に陥る。そんな中、ロザリーの死んでいたと思われた元夫が、実は生きているのではないかといううわさが流れ…
みどころ
殺人事件がなかなか起こりません。ですが、それまでの人々のやり取りが面白いです。
特にジャーミィとフランセス夫婦のやり取りがよかったです。仲良しの夫婦としてやっていたが、実は心に引っかかるところをずっと抱えていた夫。それを人生の危機においてようやく打ち明けることができ、その危機ゆえにより夫婦仲が深まるという展開。ちょっとしたサスペンスです。
アデラ・マーチモントが、ロザリーンにお金をねだりに行く場面もなかなかすごいです。なんで「お金をくれ」と私に言わせるのかと憎んだり、うまく手に入れたと思ったら、こんなに簡単にお金を渡すなんてバカなんじゃないかとあざけったり、人間の気持ちの揺れ動きがとても面白く描かれていたように思います。
また戦争についての描写が多くあります。戦争から帰ってきた人と、戦争に行かなかった人との間の心の微妙な距離感なんかは、興味深く読ませてもらいました。
登場人物について
- ゴードン・クロード(百万長者、故人)
- ロザリーン・クロード(ゴードンの若い未亡人)
- デイヴィッド・ハンター(ロザリーンの兄)
- ロバート・アンダーヘイ(ロザリーンの前夫、故人)
- アデラ・マーチモント(ゴードンの姉)
- リン・マーチモント(アデラの娘)
- ローリイ・クロード(ゴードンの甥)
- ジャーミイ・クロード(ゴードンの兄、弁護士)
- フランセス・クロード(ジャーミイの妻)
- ライオネル・クロード(ゴードンの弟、医師)
- ケイシイ・クロード(ライオネルの妻)
- ポーター少佐(アンダーヘイの友人)
- ビアトリス・リピンコット(旅館の主人)
リン、ローリイ、デイビッドの三角関係が、この小説で描きたかったことだと思いますが、いまいち機能していていないように感じました。
リンのキャラクターはとても良いと思って読み進めていましたが、だんだん共感できなくなってきて、最後の最後で、裏切られた感覚になりました。「お前それで本当にいいのか?」と多くの人が突っ込んだんじゃないでしょうか。
トリックと犯人について
トリックとしては、結構あっと思わされました。確かにそこは盲点となっていました。よくよく思い返してみると、確かに違和感はありましたが、そのまま流していました。さすがクリスティです。プロローグの時点から伏線を張っていたことになります。
ですがそれに対して、殺人の動機がどうもしっくりきません。これは犯人の魅力が薄いのが、原因かと思います。
一見面白そうな人物ですが、どうも中途半端な感じがします。めちゃめちゃいい人が犯人だった時の意外性、あるいはめちゃめちゃ悪い人が犯人だったというときの納得感、どちらかが必要だと思います。そのどちらもなかったような気がします。
感想
本筋と少し離れたところで面白い描写はたくさんありましたが、本筋にかかわる部分でトリックとドラマがうまく融合できていなかった印象です。
可もなく不可もなくって感じですかね。
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