一幕物の戯曲が3編収録された、戯曲の短編集。一番面白かったのは「患者」です。まぁ、どの作品もそれなりに不満はあるけれど、それなりに面白い感じです。短編集なので、構えずに軽い気持ちで読むのがよさそうですかね。
海浜の午後
リトル=スリッピングの浜辺は、海水浴の客たちでにぎわっていた。
はしゃぐ子供とそれをたしなめようとする母親。奔放な妻と寡黙な夫と、その妻にに色目を使う若い男性。なんでも思い通りにしようとする母親と、自分がない息子。おしゃべりな妻と皮肉屋な夫。そして誰もが目を奪われる美貌の女性…
そんな中、近くの映画スターの家に押し込み泥棒があり、エメラルドのネックレスが盗まれた。犯人が浜辺のどこかにネックレスを隠したのではないかという目撃情報もあり…
感想
男女の三角関係や海岸というシチュエーションは「白昼の悪魔」を思わせます。またマナー夫人とパーシーは「死の約束」に出てくるボイントン夫人とレノックスを思わせます。いかにもクリスティーという登場人物たちが絡み合う様子が、コメディタッチで描かれていてとても面白いです。
ネックレス泥棒の正体や、その隠し場所は正直後出しじゃんけん的な感じがあり、あまり関心はさせられませんでした。まぁ、短編なんで仕方がないですかね。マナー夫人のキャラはボイントン夫人よりも洗練されていて、毒親の雰囲気が本当によく出ています。終わり方も不思議と爽やかで、後味の良い作品だと感じました。
患者
バルコニーから転落したウィングフィールド夫人は、意識不明の状態が続いていると思われていた。ところが実は意識が戻っており、わずかに動く指の先でボタンを押すことによって意思の疎通が図れることが分かった。彼女が語る転落の真実とは…
感想
登場人物たちの様子が面白いです。特にエミリーンとブレンダの二人のやり取りは、いつものクリスティー節が全開で、とても楽しいです。
犯人をあぶりだす手法に目新しさがなく、犯人自体もとってつけた感があってあまり感心はしませんでした。ですが真犯人がわかることによって、ある人物の本当の姿(この場合本当の姿というのが適切かどうかは難しいですが…)があらわになるのが面白いです。
ボタンを使ってのやり取りはなかなかスリルがありますし、意図しているのかわかりませんが、真相が明らかになった時の少しコミカルな感じもよかったです。それになり楽しめる作品でした。
鼠たち
マイケル・トランスから飲みに来るよう誘われたサンドラ・グレイ。しかし彼女が彼のアパートに行くと、玄関の鍵が開いていたが、そこには誰もいなかった。仕方なく中で待っていると、ジェニファがやってきたのだが、彼女はトランス留守中のインコの餌やりに来ただけで、トランスさんはイギリスにはいないという…
感想
先の「患者」と同じく、特にサンドラとジェニファ二人の女性のやり取りが、なかなか陰険で面白いです。さらに男が二人登場し、ますます状況がわからなくなる。誰がここにみんなを呼び寄せたのか。どこか、「そして誰もいなくなった」を思わせます。
一番怪しいのは、この場所にいないマイケル・トランスか。ジェニファもなにやら怪しい。デヴィッドは、自分も騙されたと言うが、本当か? アレックは能天気にしているがその本心は…と、なかなかわくわくさせられました。
ただそこからもう一つひねってくるかと思っていたのですが、そのまま終わってしまった感じで、少し消化不良。犯人はその人物以外で決着できなかったかなぁ、と思います。わくわくした分、ちょっとがっかりしてしまいました。
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