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アクナーテン-アガサ・クリスティー 感想

3.5
アクナーテン アガサ・クリスティー

概要

1937年に書かれた三幕の戯曲です。しかし上映されることはなく、せめて印刷された形で見たいというクリスティーの願いにこたえる形で、コリンズ社から1972年に出版されました。ミステリー要素はなく、古代エジプトの政治劇といった内容です。

あらすじ

アクナーテンは、アメン神の神官たちによる政治の腐敗がもたらす、争いの絶えない世の中を憂いていた。父のアメンヘテプ三世が亡くなり、王の座についたアクナーテンは、自らの理想とする世の中をつくり上げようとするのだが…

みどころ

理想主義のアクナーテンと、現実主義のホルエムヘブの全くかみ合わない会話と、その中にそれとなく感じられる友情がいいです。

アクナーテンに詩の感想を求められて、わたわたするホルエムヘブ。それに対して「お前はこういうのが好きなんだろう」と、勇ましい詩を朗読する場面はなかなかユーモラスでした。

また「エジプトのことを考えてください」というホルエムヘブに対して、「私が考えているのは世界のことだ」というアクナーテン。ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。本当に自分が叱られているような感覚でした。この場面は良かったですね。

登場人物

何をおいてもアクナーテンとホルエムヘブですが、ティイもいいですね。「蒼穹の昴」の「西太后」のようです。彼女が活躍する場面がないとは言いませんが、もっともっと見たかったような気もします。

メリプタハとの腹の探り合い的な話は回想として書かれていますが、リアルタイムでやっても良かったのではないかとも思います。とはいえ戯曲ですから、そうすると場面がまた増えてしまいます。その部分が削られるのは仕方がないのでしょうね。

その他の登場人物たちは薄味です。ネフェルティティなんかも、もっと活躍させてやってもいいような気がしますが、戯曲としてのあわただしさでしょうか、もったいないなぁと思いました。

「解説」について

エジプト考古学者の吉村作治さんが、解説を書かれています。ただその解説が、少々的外れのような気がします。ネゼムートが良心のある人だとか、ホルエムヘブがアクナーテンに手をかけるとかおっしゃっていますが、そんな話でしたっけ?

エピローグにてホルエムヘブの命により、アクナーテンの象が壊されていきます。しかしこれは本作品を読むにあたって、ホルエムヘブの本心ではないはずです。ホルエムヘブのあずかり知らぬところで行われた。もしくはエジプトのためを思って気持ちを押し殺してのものだったのではないかと思われるのです。

実は「黒幕はホルエムヘブだった」なら、それはそれでミステリーとしては、意外な犯人ですけれど、クリスティーは今作品を、ミステリーにはしようとはしていませんよね。

感想

ホルエムヘブに感情移入して、アクナーテンに対してもどかしさを感じながら読んでいました。

アクナーテンのやろうとしていることは理想論で、もっと現実に即した行動をしていかなくていけないのではないかと思わされます。ですがその後、アクナーテンに諭されて、自分の考えの浅さに気づかされます。自分がホルエムヘブとして物語の中に入り込んで、アクナーテンに啓蒙されている感覚です。

話としてはよくある政治劇の薄い版です。駆け引きらしい駆け引きは、ほとんどありません。なのでそういった面での面白さを期待すると、落胆してしまうかもしれません。それよりは古代のエジプトにも、現代と同じようなジレンマがあったのかもしれないと、想像を膨らませる方が楽しいと思います。

また、アクナーテンとホルエムヘブは、クリスティーの中にある二面性の表れのようでもあります。どちらもクリスティーの思うところであり、どちらが良いとか悪いとかではないのでしょう。

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