アガサ・クリスティー、ノンシリーズ作品
アガサ・クリスティーのノンシリーズ作品は次の通りです。これらは「ポアロ」「ミス・マープル」「トミー&タペンス」が登場しない長編作品です。境目が曖昧な作品もありますが、便宜上「ミステリー」と「スパイ・スリラー」、そして「その他」に分類しました。
ミステリー
- シタフォードの秘密(1931)
- なぜエヴァンズに頼まなかったのか?(1934)
- 殺人は容易だ(1939)
- そして誰もいなくなった(1939)
- ゼロ時間へ(1944)
- 死が最後にやってくる(1945)
- 忘られぬ死(1945)
- ねじれた家(1949)
- 無実はさいなむ(1958)
- 蒼ざめた馬(1961)
- 終りなき夜に生れつく(1967)
ノンシリーズ作品とはいえ、登場人物につながりがないわけではなく、「チムニーズ館の秘密」「七つの時計」「殺人は容易だ」「ゼロ時間へ」ではバトル警視が、「茶色の服の男」「忘られぬ死」ではレイス大佐が登場しています。
またポアロシリーズ準レギュラーのオリヴァ夫人が、「蒼ざめた馬」にも登場します。「蒼ざめた馬」には「ひらいたトランプ」での登場人物が他にも出ており、内容としてつながりがあるわけではありませんが、ある意味続編的な物語になっています。
個人的おすすめ作品
ミステリー
ミステリーからは「シタフォードの秘密」「ねじれた家」をお勧めします。
シタフォードの秘密
「シタフォードの秘密」は、何か面白いミステリーはないかと聞かれたら、個人的に紹介したい作品です。意外な犯人、意外なトリック、登場人物たちのキャラクター、全てがちょうどいい感じです。後述しますが、江戸川乱歩もこの作品が面白かったといっています。あまり派手さはありませんが、個人的にはこの作品がとても好きです。
ねじれた家
「ねじれた家」は個人的にかなり印象に残った作品です。ですが、これをお勧めするのは少しためらわれる部分もあります。その理由を述べてしまうと、それはそれで興をそぐことにもなりかねませんので、難しいところです。一つ言いたいのは、この作品は世の中にある他の有名作品たちを読んだ後で、手に取るべきだということです。
意外な犯人というものもあるのですが、そこに驚きというよりも別の感情が沸き起こる不思議な作品です。それがクリスティー自身が意図しているものかはわかりませんが、奇跡のような作品だと思います。
「そして誰もいなくなった」は、私が勧めなくても十分すぎるほど他で勧められていますので、ここでは除外します。というか「そして誰もいなくなった」については、正直言うと過大評価ではないかと思うんですよね。いや、面白いんですよ。でもクリスティーの代表作かというと…
スパイ・スリラー
スパイ・スリラーからは「七つの時計」「バグダッドの秘密」をお勧めします。
七つの時計
「七つの時計」は、謎の組織セブンダイヤルズなるものが登場する、ちょっと子供っぽい作品ではあります。ですが、そういった部分もジョークとしてうまく作品中で消化しており、いい意味でバカバカしい読み口になっています。かと思うと驚きの結末が待っており、思いのほかテクニカルな作品でもあります。前作の「チムニーズ館の秘密」と合わせて読むのをお勧めします。
バグダッドの秘密
「バグダッドの秘密」は、国際的な陰謀にタイピストの仕事を首になってしまったヴィクトリアが巻き込まれるといった作品です。登場人物のヘンリー・カーマイケルとアンナ・シェーレが本当に格好いいです。またヴィクトリアがクリスティーの分身と言える存在で、この作品は、荒唐無稽なお話の中にクリスティー本人が紛れ込んで、どう立ち回るのかという物語だとも見て取れます。
クリスティーのパーソナルな部分が垣間見れる作品にもかかわらず、驚きの展開もある、スパイ・スリラーの中でも上質な作品だと思います。
クリスティーのお気に入りノンシリーズ作品
クリスティーは1972年に自作のお気に入り作品を語っています。ノンシリーズ作品であげているのは「そして誰もいなくなった」「ゼロ時間へ」「終りなき夜に生れつく」「ねじれた家」「無実はさいなむ」です。ただ、これは時期によって変わるとも言っています。





江戸川乱歩のおすすめノンシリーズ作品
江戸川乱歩は1951年、「宝石」にて大いに面白かったノンシリーズ作品として、「シタフォードの秘密」「そして誰もいなくなった」「ゼロ時間へ」をあげています。ただこれは読んでいない作品も多くあったうえでの評価です。



ちなみに余り面白くなかったものとしてあげているノンシリーズ作品は、「七つの時計」「殺人は容易だ」です。「七つの時計」は個人的には良作だと思うんですけれどねぇ。


ノンシリーズ作品ベスト
日本クリスティ・ファンクラブによるノンシリーズ作品ベスト
1982年に実施された、日本クリスティ・ファンクラブ員の投票によるクリスティ・ベストテンに入っているノンシリーズ作品です。約80名の会員が全作品について10点満点で絶対評価の点数をつけて集計したそうです。
「そして誰もいなくなった 9.43点(1位)」「ゼロ時間へ 8.26点(7位)」


ニューヨーク・タイムズによるノンシリーズ作品ベスト
ニューヨーク・タイムズの The Essential Agatha Christie という記事があります。ノンシリーズ作品で選ばれているのは、「そして誰もいなくなった」「終りなき夜に生れつく」の2作品です。


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