概要
1946年の作品です。夫であるマックス・マローワンによる1930年代に行われた、シリアの発掘に同行したクリスティーの滞在記です。出版社のコリンズ社は、ミステリーではないので出版に及び腰でしたが、思いのほか好評だったようです。
感想
近所にいるクリスティーおばさんとおしゃべりしている感覚です。「いやー、この間こんなことがあったのよ。ひどい目に合ったわ。アハハ」という感じです。作者も「まえがき」で書いていますが、肩ひじ張らずに、気軽に読めるエッセイです。ミステリー作家として高名なアガサ・クリスティーですが、エッセイストとしても有能だったように思いました。
エピソードの積み重ねで話が進んでいきます。少し前の話が、後に繋がってくるものもあり、その辺はミステリー作家の習性なんでしょうか。ちょっと面白いです。楽しいエピソードが中心ですが、時々は考えさせられたり、哀しいものもあったりと、軽くアクセントをつけてくれるので、それなりに飽きずに読み進められました。
クルド人の女とアラブ人の女の違いや、アブドゥッラーが車をまた貸ししていたエピソード、作業中に病気で亡くなった人にまつわる騒動なんかが特に面白かったかな。またベタではありますが、別れのシーンや、再会のシーンなんかは、ジーンとくるものがあります。
生活をしていく中で、辛いことや悲しいこと、腹が立つことも多くあります。ですが、それすらも楽しんでしまおうという前向きさが素晴らしいです。どんなことでも見方を変えると、笑い話になるのではないかと思わせられます。そう考えると、日々なんとなく過ごしている日常も、心がけ次第ではもっと楽しいものになりそうです。そんなことを考えさせられました。
まだ平和だった時代のことを思い返しながら、第二次世界大戦中に書かれたものだと思うと、なかなか感慨深くもあります。
そして、アガサ・クリスティーのパーソナルな部分に触れられる作品でもあります。アガサ・クリスティー作品を多く読んで、作者自身に興味が出てきた人が手に取ると、さらにアガサ・クリスティーが好きなるような作品だと思いました。
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