概要
1927年発表のポアロ長編33作中4作目です。ですが、物語上の時系列でいえば、2作目の「ゴルフ場殺人事件」と、3作目の「アクロイド殺し」の間に挟まる形です。
雑誌に連載されていた短編12本を、続き物となるように手を加えた作品です。
あらすじ
ポアロのもとにボロボロになった男がやってくる。息も絶え絶えにその男は「ビッグ4なる組織があり、ナンバー・ワンは中国人のリー・チャン・イェン、ナンバー・ツーはアメリカ人の男、ナンバー・スリーはフランス人の女、そしてナンバー・フォーは…」と言う。
そしてポアロはヨーロッパ各地を巡りながら、このビッグ4と対決することになる…
みどころ
ヘイスティングズがアルゼンチンの大農場で成功を収めていること。そして前作「ゴルフ場殺人事件」の登場人物シンデレラと、結婚して幸せにやっていること。この「ビッグ4」事件が終わって、ポアロが引退を決意しており、次の「アクロイド殺し」につながっていることが描かれています。
またヴェラ・ロサコフは「愛国殺人」にも登場します。その他短編集の「教会で死んだ男」の「二重の手がかり」や「ヘラクレスの冒険」の「ケルベロスの捕獲」にも出てきます。ポアロが恋愛感情を持つ人です。
そして「アシル・ポワロ」というポアロの双子の兄弟が登場(?)するのは、ポアロの物語を読むうえで外せないでしょう。
各々の謎
もともと短編作品だったものを長編化したものなので、小さな事件がいくつか盛り込まれています。興味深いものを抜き出してみます。
羊の腿の肉
ジョナサン・ホェイリイは頭部に打撲傷を受けて、咽喉をかききられて殺された。中国製のヒスイの像がなくなっており、強盗殺人のように思えるが、女中のベッシーと下男のグラント以外に怪しい人物はおらず…
感想
羊の腿肉を手に、興奮した叫び声をあげるポアロと、それにあきれるヘイスティングズが面白いです。このトリックはよくあるパターンですかね。某有名作のメイントリックでもありますし、「メソポタミヤの殺人」でも使っていたように思います。
黄色いジャスミンの謎
晩餐後に気分が悪くなったペインター氏。医者の診察を受けたところ、心臓が弱っているので安静にするよう言われた。ところが翌日の朝、書斎から焦げたようなにおいがして、ドアを打ち破ると、そこには黒焦げになったペインター氏の姿が…
感想
少ないと登場人物の中で、意外な犯人を演出しています。面白かったです。「黄色いジャスミン」というダイイングメッセージについては、勉強になりました。
チェスの問題
ロシアチェスチャンピオンのサヴァロノフ博士と、アメリカの新鋭ギルモア・ウィルスンが戦った。しかしなんと数手目のところで、ウィルスンが心臓まひで死んでしまった。ウィルスンは健康で心臓は悪くなかったのに…
感想
Aかと思わせておいてBだった… と思わせておいてAだったという話。よくあるパターンではありますが、登場人物たちのキャラづけがうまく、見事に騙されました。
恐るべきカタストロフ
老紳士テンプルトンのところに派遣された看護婦パーマーは、テンプルトンの病状に疑問を抱く。時によっては平気なのに、突然発作を起こして吐いてしまうこともある。パーマーは食事のスープをこっそりとって分析したところ、なんとスープからアンチモンという毒が発見され…
感想
怪しい人物が出そろってさぁどうなる? というところから、予想斜め上の展開! これはすごい!
疑問点
よくわからないのが最後の爆発です。あれは誰が仕掛けたんでしょうか。ビッグ4なら、自分たちがそれで死んでしまうのは意味が分からない。
「敵を一挙にせん滅する方法だってあるんだよ」とマダム・オリヴィエが言っています。だから、何らかの爆破装置はあると思われます。ですが、「遠くの方から反響が聞こえてきた。そしてひとりの男が絶叫しながら、部屋の中にとびこんできた」と、あるので、爆発は何らかミスで作動してしまったのでしょうか。
ヴェラ・ロサコフとしてもおかしなところがあります。「大爆発が起るまえに、ここから脱出しなければなりません」と、息を切らせて走っています。
ということは、爆発が起こるのを事前に知っていますよね。なのに、ポアロたちが逃げ出さないか見張っているのはどういうこと? そしてその結果、脱出は爆発ぎりぎりです。子供のことで気が転倒して、タイミングがわからなくなったってことでしょうか。
感想
世間的に評価の低い「ビッグ4」ですが、期待せずに読んでみると、思いのほか面白かったです。まぁ、これはハードルが下がりに下がった状態だったからというのもあったかも。
連作短編形式で、それぞれの物語にものすごいトリックがあるわけではありません。しかし、それなりの驚きはありました。正直子供だまし的なものも多いのですが、展開が速いので飽きることなく読み進められます。
ヘイスティングズが格好いいです。脅迫されて、妻とポアロのどちらを取るのかを迫られ、妻を選ぶ苦渋の決断をしたヘイスティングズ。しかし、ポアロが罠にはまりそうになったのを目の前にして、たまらずポアロを助けようとするところなんかは、とても素晴らしいです。
ポアロがいなくなってから、一人でビッグ4に立ち向かう決心をするヘイスティングズも、なかなかいいです。「あなた一人じゃ無理ですよ」とたしなめられるところも含めて、愛すべきヘイスティングズという感じです。
まぁしいて言えば、これをポアロにやらせるのはちょっと違うかな、というところです。ポアロが世界征服をたくらむ敵と戦うなんて、今から考えるとちょっとイメージが違います。この時期ではポアロのキャラが定まり切っていなかったのでしょうか。
どちらかといえば、これは「トミー&タペンス」的な話だと思います。事実「おしどり探偵」は「ビッグ4」とよく似ていますものね。
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