概要とあらすじ
1966年のポアロ長編33作中30作目。
実業界の大物アンドリュウ・レスタリックの娘、ノーマがポアロのもとを訪れる。彼女は殺人を犯したような記憶があり、それについて相談しようとした。しかし思い直して相談せずに、ポアロの事務所を後にし、その後行方をくらましてしまう。ポアロはその様子が気になって…という話。
みどころ
話が割と淡々と進みます。とても読みやすいです。登場人物の数はいつものクリスティー作品よりは少なめなので、把握はしやすいかと思います。
殺人はなかなか起こりませんが、むしろ何が起こっているのだろうか、という興味で読み進めることができます。
ところどころに思わせぶりなことが書かれてありますので、あれよあれよとページは進むかと思います。
登場人物について
登場人物の中では、ロデリックがいいです。さんざん話をしておいて、「あやつ、何者だかさっぱり思い出せん」というところが面白いですね。
また「お茶でものみながら菓子パンかエクレアか、このごろの若い娘の好きなものを食べるように言ったはずだぞ、うん? 言いつけ通りにしたじゃろうな」なんて、言い方は頑固おやじですが、内容が甘々なところなんか、笑えます。
ただ、それ以外の人物はどうも薄く感じます。デイビッドが多少面白いかな、と思いましたが、埋没していく感じです。その他の人物も悪くはないんですが、あまりこれと言って印象に残らないです。
というのも、大した事件が起こらず、淡々と話が進んでいくからだと思われます。
捜査陣では、オリヴァ夫人が活躍します。これまでのオリヴァ夫人は、よくわからないことをギャーギャーと騒ぎ立てるだけの印象でしたが、「第三の女」では行動的です。ですがそれだったら、オリヴァ夫人ではなく、ヘイスティングズでもよかったのでは、とも思いました。
デイビッドはなぜクロスヘッジにいたのか?
ポアロがロデリックに会いにクロスヘッジに来た時、デイビッドがそこにいました。彼はなぜクロスヘッジにいたのでしょうか。
「ノーマがここで見つかるかと思った」とデイビッドは言いましたが、これはうそでしょう。
デイビッドとメアリは仲間なので、これはポアロに向けての言葉です。つまりデイビッドがここにいる、とりあえずの理由として出された言葉です。で実際に車の中で、ポアロにそのうそは見抜かれています。
のちにポアロは「ノーマの使いであらわれた(あるいは、偵察だったのかもしれないが)…」と考えています。
ノーマの使いなら、メアリの驚き方がおかしいので、それは違うでしょう。
ただこの段階ですでに、デイビッドとアンドリュウ・レスタリックとの関係が壊れていたとしたら、話は別です。そうならデイビッドがクロスヘッジにいることに、メアリが驚くのは普通です。ですが、デイビッドとメアリのやり取りを考えると、やはり事前のすり合わせがあったと思われます。
諸々考えると普通に「偵察」と考えるのがいいのではないかと思います。
ですがポアロは、細かい時間の打ち合わせなしに、いきなりクロスヘッジを訪れました。そこに偵察のためのデイビッドがタイミングよくあらわれるというのも考えにくいです。と、話がぐるぐるして、結局よくわかりません。
ポアロがちゃんと時間を指定して、訪問していたらこんなことにはならなかったのではないかと思うのですが…
犯人とトリック
犯人の一人は分かりました。
肖像画をオフィスに持ち込んでいることで、アンドリュウ・レスタリックが、本人ではないことがわかりました。
ただ、それ以外は全然見当もつきませんでした。そして真相が明かされて、「そうなのか!」とは、一瞬なりました。しかしすこし落ち着くと、「だから、どうしたの?」となってしまいました。
もう一人の犯人を示す伏線って、ほとんどありませんでしたよね。「鬘」がそうだったのでしょうが、それはあまりに根拠として薄すぎませんかね。いきなり、「この人は実はこうだったんです」と言われても、突然後ろから「ワッ」と驚かせるのと同程度の衝撃です。あまり感心はしなかったです。
ジロー刑事
戦時の話をしたときに出てきた「同僚のムッシュウ・ジロウ」というのは、「ゴルフ場殺人事件」のジロー刑事のことでしょうか。なつかしいですね。
感想
正直あっさり読んで、あっさり終わっちゃった印象です。読んでいる最中、盛り上がるでもなく、盛り下がるでもなく、本当に淡々と読み進められました。
オリヴァ夫人の冒険や、ロデリックの描写など面白い部分もあります。ポアロがあれこれと思いを巡らすところが、少し読みづらかったくらいです。でもあまり印象に残らないんですよね。
可もなく不可もなく、と言いたいところですが、クリスティーの平均には届かないかなと思います。
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