ミス・マープル物は長編12作と「火曜クラブ」という短編集があります。(その他いろいろな短編集に散らばって数作品ありますが…)その読む順番やおすすめの作品を紹介します。
マープルもの全作品制覇の際の読む順番
まず読み方の順番ですが、発行順に読むのがいいと一般的に言われています。ですが、私はそこにやや疑問があります。というのは「スリーピング・マーダー」の存在です。
この作品は働けなくなった時に備えて夫に残した作品で、クリスティーの死後発表されました。執筆時期としては、マープルもの第三作「動く指」の後らしく、物語の時系列もその位置で考えるのがいいかもしれません。
また「カリブ海の秘密」と「復讐の女神」についてです。この作品は続き物のような形になっています。それをどう考えるかです。発行順でいえば、その二作の間に「バートラム・ホテルにて」が入っています。
「バートラム・ホテルにて」を挟むことによって、「カリブ海の秘密」と「復讐の女神」の時間の経過を感じるか、それとも二作続けて読んで登場人物の印象を薄めないまま読むかは、好みによるでしょう。私は続けて読んだ方がいいのではないかと思いました。
それを踏まえて、全作品制覇の際のおすすめ順を書いてみました。赤字の部分が発行順とは違うところです。
発行順
牧師館の殺人 (1930)
火曜クラブ (1932)
書斎の死体 (1942)
動く指 (1943)
予告殺人 (1950)
魔術の殺人 (1952)
ポケットにライ麦を (1953)
パディントン発4時50分 (1957)
鏡は横にひび割れて (1962)
カリブ海の秘密 (1964)
バートラム・ホテルにて (1965)
復讐の女神 (1971)
スリーピング・マーダー (1976)
おすすめ順
牧師館の殺人
火曜クラブ
書斎の死体
動く指
スリーピング・マーダー
予告殺人
魔術の殺人
ポケットにライ麦を
パディントン発4時50分
鏡は横にひび割れて
カリブ海の秘密
復讐の女神
バートラム・ホテルにて
個人的おすすめマープル作品
とはいえ、全部の作品を読むのは大変だと思われる人もいるでしょう。その中で特におすすめはどれですか? と言われる方のために、これだけは読んで欲しいと思う作品を紹介します。約半分の6作+αに絞りました。
こちらも上から順番に読んでいくのがおすすめです。
牧師館の殺人
まずは「牧師館の殺人」です。
「牧師館の殺人」は、できとしてはぼちぼちですが、「セント・メアリ・ミード」というミス・マープルが住んでいる村や、そこの住人たちのことを知るために、ぜひ読んでもらいたいです。そうすれば、必ず「鏡は横にひび割れて」を読んだときに、よかったと思うはずです。
書斎の死体
次は「書斎の死体」です。
「書斎の死体」も、「鏡は横にひび割れて」の現場となるゴシントンホールや、マープルの親友であるバンドリー夫人のキャラクターをつかむために読んでもらいたいです。
火曜クラブ
ですが、それを言うならもう一つおすすめがあります。それが「火曜クラブ」です。
「火曜クラブ」は短編集です。こちらにもバンドリー夫人と、彼女が住むゴシントンホールが出てきます。本当は「書斎の死体」と「火曜クラブ」の両方を読んでもらいたいのですが、どちらか一つだけとすれば「火曜クラブ」の方がおすすめです。
「火曜クラブ」は短編集なので読みやすいですし、できとしてもかなり良いと思います。
予告殺人
次は「予告殺人」です。
田舎ののんびりした様子が全編に流れます。途中は正直ダレてしまうところもありますが、その分終盤に怒涛の伏線回収があります。のんびりした雰囲気だった分、余計に犯人の悲しさみたいなものが伝わります。
謎解き小説としては、マープル物の中で「予告殺人」が一番よくできているのではないかと思います。
ポケットにライ麦を
次は「ポケットにライ麦を」です。
この作品はマープルの格好良さが際立ちます。いつもは飄々としたおばあさんですが、今回は胸に「怒り」を抱えていますので、ふとした一言一言にもなにやら迫力を感じます。
そしてなんといってもエピローグです。これは感情をかき乱されること間違いなしです。推理小説としても、それなりに面白いのですが、それまでのことは何だったんだというくらい、エピローグで心を震わされます。
パディントン発4時50分
次は「パディントン発4時50分」です。
この作品はなんといっても、スーパー家政婦のルーシー・アイレスバロウです。彼女の活躍をめでましょう。全体的に登場人物がコミカルで、特に男性陣とルーシーとのやり取りが面白いです。
読んでいて、とても楽しい作品です。
鏡は横にひび割れて
最後は「鏡は横にひび割れて」です。
登場人物のやり取りは愉快です。全体的にコミカルな雰囲気です。
マープルが老人扱いされて、それに対抗してあれこれしようとする姿が楽しいです。ですが、セント・メアリ・ミードの村が変わっていく様子も相まって、ちょっともの悲しいです。それゆえ、マープルが活躍する場面は、驚きと格好良さがあります。
田舎特有ののんびりした雰囲気で話は進みますが、その分読み終わった後に、犯人や被害者といった登場人物たちにに思いを馳せて、いろいろ思うことができる作品です。
ミス・マープルものベスト5
ミス・マープル作品を、あえてランキングをしますとこうなります。
クリスティのお気に入りマープル作品
クリスティが1972年にお気に入りとして、マープル作品であげているものは「予告殺人」「火曜クラブ」「動く指」です。ただ、これは時期によって変わるとも言っています。
ちなみに江戸川乱歩は、1951年「宝石」にて大いに面白かったマープル作品として、「予告殺人」をあげています。ただこれは読んでいない作品も多くあったうえでの評価です。そして、余り面白くなかったマープルものとして、「動く指」をあげています。
クリスティのお気に入りの作品の中に、乱歩の面白かった作品と、あまり面白くなかった作品があるのが興味深いですね。
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