概要とあらすじ
1935年のポアロ長編33作中11作目です。
ポアロのもとに A・B・C と名乗る人物から、二十一日のアンドーバーに注意するよう書かれた手紙が送られる。いたずらかと思われたが、実際その日にアンドーバーで A のつく人が殺された。しばらくして今度は、ベクスヒルに注意するよう書かれた手紙が届き…という話。
シリーズものとして
ヘイスティングズが結婚して、南アメリカに行き、牧場を経営している。そして不況に悩まされているそうだ。結婚相手は「ゴルフ場殺人事件」のシンデレラです。
ポアロ自身はほとんど変わらないですが、ヘイスティングズの状況がこうやって動いているのを知ることができるのが、シリーズものとしては面白いところです。
他にも、前の事件に言及されている場面がいくつかあります。
「ぎわどいところで命びろいをしたよ」「この、エルキュール・ポアロが、あやうく完全にやっつけられるところだったよ」「大胆というのじゃない、無謀なんだな」
この事件は何なんでしょうか? 「三幕の殺人」のことでしょうか。
その他には「列車事件」、これは「オリエント急行の殺人」のことでしょう。「空の事件」、これは「雲をつかむ死」です。「社交界の殺人事件」、これは「エッジウェア卿の死」ですね。
こう考えると、ポアロ物は順番に読んでおく方がいいですね。その方が読んでいて、想像が膨らみます。
みどころ
犯人を探し出して、次のDの事件を未然に防ぐために、ABC事件それぞれの関係者たちが「特別部隊」を作るために集まります。その場面は、なかなか面白かったです。女性三人と男性二人、それぞれにキャラがあって、ドリームチーム的なわくわく感がありました。
ただ、その特殊部隊が活躍する場面は、あまりありませんでした。結局「ミーガンとフレイザーがミリー・ヒグリーにあたる」と「メアリーがアンドーバーの子供たちにあたる」は、その後何の言及もされていません。
成果があったにしろなかったにしろ、何らかの話があってもよかったように思いました。面白そうな設定だったので、ちょっともったいないです。
感想
サイコサスペンスの元祖と言われるそうです。ヘイスティングズが体験する出来事の合間合間に、犯人らしき人物の章が挟まれています。今ではよくある形式ですね。
殺人狂による連続殺人事件かと思わせておいて、もちろんクリスティですから、そんな単純なわけはないよなぁ、と思いながら読み進めます。
ですが、この読書態度はよくありませんでした。そういう目で見てしまうと、明らかに怪しい人物が目につきます。するともう駄目ですね。その後の発言や行動が、ことごとく怪しく思えてしまいます。そして結果、その人物が犯人でした。
そういう意味では衝撃は少なめです。推理小説をあまり読み慣れていない時期に読むと、もっと楽しめたと思われます。
終わり方は良かったと思います。犯人はやはり、ああいう感じで裁かれないといけないですね。登場人物たちに、それぞれのその後が示されたのもよかったです。メアリーだけ蚊帳の外ですが…
おまけ
ポアロとヘイスティングズが、どんな殺人事件に興味があるかという話をしている中で、ポアロが好きな殺人事件としてこう言っています。
「四人の人間がすわって、ブリッジをしていて、一人、仲間はずれになっているのが、暖炉のそばの椅子にかけているんだ。夜が更けたころになって、気がついてみると、火のそばの男が死んでいる。四人のうちの一人が、ダミーで手札をさらして宣言者にやらせている間に、その男のそばに行って殺してしまったのが、ほかの三人は、勝負に熱中していて、気がつかなかったんだ。さあ、犯罪だよ、きみ! 4人のうちの誰だ、犯人は?」
これはポアロもの13作目「ひらいたトランプ」です。翌年に執筆する作品のプロットを、ここに書いているのです。
「ABC殺人事件」→「ひらいたトランプ」の順に読んだときは、見逃していましたが、この「ABC殺人事件」を再読したとき、このことに気づくことができました。
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