概要
1935年のポアロ長編33作中11作目です。
個人的評価
あらすじ
ポアロのもとに A・B・C と名乗る人物から、二十一日のアンドーバーに注意するよう書かれた手紙が送られる。いたずらかと思われたが、実際その日にアンドーバーで A のつく人が殺された。しばらくして今度は、ベクスヒルに注意するよう書かれた手紙が届き…
登場人物
- アリス・アッシャー(最初の犠牲者)
- フランツ・アッシャー(アリスの夫)
- メアリ・ドラウアー(アリスの姪)
- エリザベス・バーナード(二番目の犠牲者)
- ドナルド・フレーザー(エリザベスの恋人)
- ミーガン・バーナード(エリザベスの姉)
- カーマイケル・クラーク卿(三番目の犠牲者)
- フランクリン・クラーク(クラーク卿の弟)
- ソーラ・グレイ(クラーク卿の秘書)
- ジョージ・アールスフィールド(四番目の犠牲者)
- アレグザンダー・ボナパート・カスト(行商人)
シリーズものとして
ヘイスティングズが結婚して、南アメリカに行き、牧場を経営している。そして不況に悩まされているそうだ。結婚相手は「ゴルフ場殺人事件」のシンデレラです。
ポアロ自身はほとんど変わらないですが、ヘイスティングズの状況がこうやって動いているのを知ることができるのが、シリーズものとしては面白いところです。
他にも、前の事件に言及されている場面がいくつかあります。
「つい最近も、危ないところだったんです」「この、エルキュール・ポアロが、もう少しで抹殺されるところだったんです」「いや、大胆というよりは軽率です」
この事件は何なんでしょうか? 「三幕の殺人」のことでしょうか。
その他には「列車の殺人」、これは「オリエント急行の殺人」のことでしょう。「航空機内の殺人」、これは「雲をつかむ死」です。「上流社会の殺人」、これは「エッジウェア卿の死」ですね。
こう考えると、ポアロ物は順番に読んでおく方がいいですね。その方が読んでいて、想像が膨らみます。
みどころ
犯人を探し出して、次のDの事件を未然に防ぐために、ABC事件それぞれの関係者たちが「特別部隊」を作るために集まります。その場面は、なかなか面白かったです。女性三人と男性二人、それぞれにキャラがあって、ドリームチーム的なわくわく感がありました。
ただ、その特殊部隊が活躍する場面は、あまりありませんでした。結局「ミーガンとフレイザーがミリー・ヒグリーにあたる」と「メアリーがアンドーバーの子供たちにあたる」は、その後何の言及もされていません。
成果があったにしろなかったにしろ、何らかの話があってもよかったように思いました。面白そうな設定だったので、ちょっともったいないです。
感想
サイコサスペンスの元祖と言われるそうです。ヘイスティングズが体験する出来事の合間合間に、犯人らしき人物の章が挟まれています。今ではよくある形式ですね。
殺人狂による連続殺人事件かと思わせておいて、もちろんクリスティですから、そんな単純なわけはないよなぁ、と思いながら読み進めます。
ですが、この読書態度はよくありませんでした。そういう目で見てしまうと、明らかに怪しい人物が目につきます。するともう駄目ですね。その後の発言や行動が、ことごとく怪しく思えてしまいます。そして結果、その人物が犯人でした。
そういう意味では衝撃は少なめです。推理小説をあまり読み慣れていない時期に読むと、もっと楽しめたと思われます。
終わり方は良かったと思います。犯人はやはり、ああいう感じで裁かれないといけないですね。登場人物たちに、それぞれのその後が示されたのもよかったです。メアリーだけ蚊帳の外ですが…
おまけ
ポアロとヘイスティングズが、どんな殺人事件に興味があるかという話をしている中で、ポアロが好きな殺人事件としてこう言っています。
「四人の人間がブリッジをしていて、それに加わらない一人が暖炉のそばの椅子に座っている。夜更けになって、暖炉のそばの男が死んでいることが発見される。四人のひとりが、ダミーになって休んでいるときに、そこにいって彼を殺したが、ほかの三人はゲームに夢中になっていて気づかなかった。ああ、それがあなたにふさわしい犯罪ですよ! 四人のうちの誰がやったのか?
これはポアロもの13作目「ひらいたトランプ」です。翌年に執筆する作品のプロットを、ここに書いているのです。
「ABC殺人事件」→「ひらいたトランプ」の順に読んだときは、見逃していましたが、この「ABC殺人事件」を再読したとき、このことに気づくことができました。
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