1892年に発表の短編集です。
長編の「緋色の研究」「四つの署名」に続く形で発表されました。「ボヘミアの醜聞」「赤毛組合」「まだらの紐」など、聞いたことがあるタイトルの作品がたくさんありました。ですが、私的お気に入りは「緑柱石の宝冠」、ついで「橅の木屋敷の怪」です。
ボヘミアの醜聞
ボヘミア王が写真のことでアイリーンに弱みを握られており、その写真を取り戻してほしいとホームズに依頼する…という話。
ホームズの計略は分かりました。ボヘミア王はお金持ちですから、それくらいできるだろうなぁ、と思いました。ホームズが唯一やられた女性というのも面白いです。
赤毛組合
「赤毛組合の欠員が一人出たので、応募される人は事務所に来るよう」と新聞広告に出された。ウィルスン氏が行ってみると、数々の応募者の中から選ばれ、簡単な仕事で週給4ポンドを受け取ることになる。ところがしばらくしたある日、ウィルスン氏が事務所に行くと「赤毛組合の解散」の張り紙があって…という話。
赤毛組合の目的は分かりました。これはまぁ、そうだろうなぁという感じです。犯人の捕まった後の態度がなかなか面白かったです。いいキャラクターですね。
花婿の正体
サザランド嬢はある舞踏会で出会ったホズマーと婚約をする。結婚式を挙げようと教会に向かったところ、なぜかホズマーの姿が消えてしまう…という話。
ホズマーの正体と、そのたくらみは分かりました。ちゃんとヒントを出してくれていますので、分かりやすいです。結末は「それで終わり?」という感じですが、まぁ、めでたしめでたしなんでしょう。
ボスコム谷の惨劇
マッカーシー父が頭を殴られて殺された。現場で息子と口論している様子が目撃されており、その息子に容疑がかかるが、彼に好意を寄せるターナー嬢が彼の無実を訴えて…という話。
なぜ結婚を勧める人物と、反対する人物がいるのかという謎が面白かったです。確かにそういうことなら、そうなるよなぁ、という感じ。結末はハッピーエンドのようですが、果てしてどうなんでしょうね。
五つのオレンジの種
イライアスのもとに五つのオレンジの種が同封された手紙が届く。それを見たイライアスはひどくおびえ、閉じこもるような生活をしていたが、ある日酔って家を飛び出し池で亡くなった。その遺産をついだ兄弟のジョーゼフのもとにも同じような手紙が届き、そして廃坑に落ちて亡くなる。そしてその息子オープンショーのもとにも、オレンジの種が入った手紙が届き…という話。
わくわくして読んだのですが、なんということもない話でした。KKKの成り立ちについて、勉強にはなりましたね。ホームズが正義感を持って行動していたのが、少し新鮮に感じました。
くちびるのねじれた男
シンクレア夫人は買い物を済ませて帰る途中、いるはずもない場所に自分の夫の姿を見る。助けを求めている様子に驚いてその場に駆けつけると、そこにいたのはインド人と足の不自由な物乞いで、シンクレア氏はいなかった。シンクレア氏はどこに消えたのか…という話。
この話はなんかのトリック集で知っていました。「まぁ、そうなるよね」という話です。というか、シンクレア氏はこれからどうするんでしょうか。
青い柘榴石
使丁のピータースンは帰り道、一人の男が与太者に襲われているのを見かける。ピータースンは助けに入ると、その男も与太者も驚いて逃げてしまい、そしてそこには男が持っていた鵞鳥が残されていた。ピータースンがその鵞鳥を料理すると、なんと中から青い柘榴石が…という話。
鵞鳥の出所を探っていく過程が、面白いです。特に口の堅い卸売商から証言を引き出す、ホームズのやり口は良かったです。
まだらの紐
ヘレンの姉のジュリアは結婚まであとわずかという日、「まだらの紐よ」と謎の言葉を言い残し亡くなっていた。そしてヘレンが結婚することが決まり館の改修の関係で、姉が亡くなった部屋で寝なくてはならなくなった時、姉が毎夜聞いていたという口笛の音が聞こえて…という話。
いわゆる密室物。ドアや窓も鍵がかかり、換気口の隙間があるくらい。狒々が飼われている点は、ポーの「モルグ街の殺人」をフリに使っているのかなと感じました…と思ったら、巻末の解説でもその点に触れられていました。
有名な話なので、トリックは知っていましたが、そういう結末だったんですね。因果応報。
技師の親指
水力技師のハザリーに。調子の悪くなった水力圧縮機の調子を見てもらいたいと、依頼が来る。仕事内容のわりに報酬がよく喜ぶハザリーだったが、秘密厳守ということで何やらうさん臭さを感じ…という話。
事件現場がどこなのかという謎(?)は、私にも想像がつきました。楽しく読むことができましたが、これは推理ものではなかったような。ところで、あの女性はどうなったのでしょうか。
あと「この経験を話すことで、話が面白い人との評判を得られるよ」と言われても、さすがに割が合わないですよね。
独身の貴族
セント・サイモン卿はハティ・ドーラン嬢と結婚することになった。しかしドーラン嬢は披露宴で席を外すと、そのままどこかにいなくなってしまった…という話。
この話の流れから考えると、こうなるよなぁ、という感じ。さすがにサイモン卿がかわいそうすぎませんかね。まぁ、彼も財産狙いという、よこしまな考えがありましたから、因果応報なんでしょうか。
緑柱石の宝冠
銀行頭取のホールダーは、融資の担保として緑柱石の王冠を預かった。家の金庫に厳重に保管していたが、真夜中、物音に目覚めて金庫のもとに行ってみると、息子のアーサーが宝冠を手に取ってなにやらやっている。しかもその宝冠から金の台座の一角が、そこにはめられた宝石が三つとともになくなっていた…という話。
ホームズが力を入れてもびくともしない宝冠が、ねじ曲がっていた理由には納得させられました。意外な犯人や、その恐ろしさ(?)も楽しめる好編だったように思います。
ホームズが最後に「遠からずじゅうぶんすぎるほどの報いを受けることになる」と冷たく言い放つところもよかったです。
橅の木屋敷の怪
ルーカッスル氏に家庭教師として来てほしいと頼まれたハンター嬢。しかし髪を短く切るように言われたり、鋼青色のドレスを着て特定の椅子に座るよう指示されたりと、よくわからないことが続く…という話。
ルーカッスル氏の快活だが、どこか不気味な感じが面白いです。ちょっとした違和感が積み重なって、何かよくわからないが危険を感じる、という展開がホラーです。なかなか面白かったです。
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