1965年の作品。6つの短編と、その間に4つの詩が挟まった形式になっています。聖書に材をとったクリスマスブックで、イエス・キリストや聖母マリア、聖人や天使などが登場します。
ミステリー作家として有名なアガサ・クリスティーですが、この本では人間の心理や信仰について鋭い観察力と優しい筆致で描いています。クリスマスに関係するコンテンツに触れたい人におすすめの一冊です。
ベツレヘムの星
イエス・キリストが生まれた夜、聖母マリアのもとに天使が現れる。そして天使はマリアにイエスの未来を見せ始めるのだが…
いかにもな内容です。聖書にこのエピソードがあってもおかしくないような話だと思いました。純真な心が悪を退けるという、ある意味勧善懲悪の内容で、読後感は良かったです。
いたずらロバ
いたずら好きのロバがいました。ロバは飼い主から逃げ出し、ベツレヘムに向かう隊商のなかに紛れ込んだ。一行は町につき、ロバは牛とラクダがいる厩にいたのだが、そこに男と女がやってきて、あたりが騒がしくなった。女が産気づいたのだった…
ロバがかわいいですね。赤ん坊に耳をつかまれて、いいことがしたくなるなんて、なんて微笑ましいんでしょう。バラムとロバのエピソードや、ベツレヘムを出るエピソードを、聖書で確認することでより楽しめました。
水上バス
ミセス・ハーグリーヴズは信心深い人間だったが、人間嫌いでもあった。優しくしてやりたいとは思うのだが、どうしていいのかわからないのだ。日々のわずらわしさから逃げ出すように、彼女は水上バスに乗り込んだのだが…
上衣に触れたあとの、彼女の心持が何とも言えず、すがすがしいです。「春にして君を離れ」と裏表の関係とも言えそうな作品です。
解説に「ラストのオチの一行が効いています」とありますが、どういうことなんでしょうか。ラスト二行目の「それとも、水の上を歩いて行ったのかな」の方がオチが効いているように思うのですが。
夕べの涼しいころ
グリアズン夫人の息子は十三にもなって、誰にも見えない友達と、庭で不思議な動物に名前を付けて遊ぶような子供だった。グリズアン夫人は知恵遅れの自分の息子を心配して、必死に教会で祈るのだが…
「知恵遅れと思われている息子が、庭の片隅ではアダムとなって、新しい世界を創っている」みたいな話なのでしょうか。研究所で事故があって、変な生き物が生まれてきたというあたり、恐ろしい感じもするし、またそれもまた神の導きであるかのような…
いと高き昇進
ジェィコブ・ナラコットは前の晩酔いつぶれて、翌朝溝から起き上がると、十四人の妙な姿をした一行を見た。それは救難聖人で、彼らは大審院へ陳情に向かうところだった…
いろいろな聖者が登場して、楽しかったです。聖トマスが引き返してきて「承認」か「昇進」かを確かめる場面と、聖クリスチナが車の排ガスの匂いに困惑する場面が特に面白いですね。注釈が充実していますので、そこと照らし合わせながら読むといいです。
島
マリアは島の人たちから「聖人」と呼ばれる息子と暮らしていた。しかし彼女には、前に悪いことをして死刑になった息子がいて…
ちょっとしたミステリーでした。マリアの前に死刑になった息子というのは、キリストのことなのだろうか。すると今一緒に暮らしている「聖人」と呼ばれる息子は誰なのか? そういった謎が最後に明らかになります。
マリアと今の息子とのやり取りは、コミカルですが、ちょっと恐ろしいです。本当に「聖人」と言う人はそういう人なのかもしれませんね。
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