概要とあらすじ
1936年のポアロ長編33作中13作目。
いずれも殺人の前歴がある(?)4人が、「ブリッジ」というトランプを使ったゲームをやっています。そのさなかに、彼らを招待したシャイタナが刺殺されます。どうやら、ブリッジの抜け番のときに殺人が行われたらしいが…という話。
ABC殺人事件にて
「ABC殺人事件」にて、ポアロとヘイスティングズが、どんな殺人事件に興味があるかという話をします。その中で、ポアロが好きな殺人事件としてこう言っています。
「四人の人間がすわって、ブリッジをしていて、一人、仲間はずれになっているのが、暖炉のそばの椅子にかけているんだ。夜が更けたころになって、気がついてみると、火のそばの男が死んでいる。四人のうちの一人が、ダミーで手札をさらして宣言者にやらせている間に、その男のそばに行って殺してしまったのが、ほかの三人は、勝負に熱中していて、気がつかなかったんだ。さあ、犯罪だよ、きみ! 4人のうちの誰だ、犯人は?」
まさにこれが「ひらいたトランプ」のプロットです。前々回の作品にて浮かんだ構想を、実際に作品として作り上げたのです。
ポアロ自身、「この事件って、あの時言っていたやつと同じ状況だわ」と思わなかったのかな?
探偵役
「ひらいたトランプには」ポアロを含めて、4人の探偵役が登場します。まずはオリヴァ夫人。彼女は探偵作家です。クリスティ自身の気持ちを代弁するかのような、発言や態度をする人物です。次はレイス大佐。彼は諜報部員です。最後はバトル警視。もちろん警察関係者です。
彼らはノンシリーズも含めて、いろいろな作品に登場します。それが一堂に会しているわけです。そういった意味では、ファンブック的な側面もありますね。
みどころ
物的証拠が、ほとんどありません。そこで心理的な側面から、調査を進めることになります。
容疑者に一人一人に、探偵チームがそれぞれアプローチをかけていきます。対応する人によって見えるものが違っているため、いろいろな側面から容疑者たちが語られます。その中で階層的に、容疑者たちの実像が浮かんでくる、という展開がよかったです。
登場人物のキャラクター
それぞれの容疑者の過去が、少しずつ見えていく過程が面白いです。それと同時に、ブリッジのゲームの進め方から、容疑者の性格が見えてくるというのも面白いです。
容疑者の4人はもちろん、その他の登場人物のキャラがしっかり立っています。その中でもやはり一番は、ラクスモア夫人です。この人の描写は抜群です。めちゃめちゃ面白い。
アンとローダの対比もなかなか面白いです。ただ、デスパート少佐の最後の選択に関しては、もう少し理由付けが欲しかったかな、という印象です。
感想
色々めぐりめぐって、実は
最初から示されていた「ブリッジ」の得点表
にヒントが隠されていたという話。確かに指摘されると、そこには違和感を感じます。ただそこに注意がいかないように、ミスリードが施されています。少し意地悪な気がしますが…
「ブリッジ」のゲーム性を理解していないと、真相にはたどり着けません。ブリッジを理解していれば、もっと楽しめた作品だろうと思うと少し残念です。また物理的なトリックや証拠がないので、その点で残念に思う人もいそうです。
とはいえ意外な犯人やどんでん返しもあり、なかなか楽しめた作品です。
コメント