概要とあらすじ
1964年のミス・マープル長編12作中9作目です。
マープルが療養のために来ていたゴールデン・パーム・ホテルに滞在する。そこで、パルグレイヴ少佐はマープルと意味深な会話をした翌日に殺されてしまう…という話。
みどころ
クリスティーの作品としてはあっさりと殺人が起こります。章でいえば第三章です。カリブ海の秘密は章が細かく分かれていますので、こんなに早く殺人が起こるのか、という印象です。
それからも話の展開が結構早いです。テンポよく話が進みます。マープルがいろいろ策を凝らしながら、登場人物たちから話を引き出そうとしている様子はなかなか面白いです。
登場人物について
ラフィールがなかなかいい味を出しています。はじめはいけ好かないおじいちゃんだと思っていましたが、だんだんキャラが立ってきて、その口の悪さもまた好ましく思えてくるようになりました。
もう少しラフィールにも活躍の場が与えられてもよかったように思います。ラフィールの発言のおかげで、マープルが真相に気づいたとかそういうものが欲しかったです。
それに対して、ヒリンドン夫妻とダイスン夫妻の印象が薄いです。特にラッキーはもっとおもしろく描写できたのではないかと思います。
ミスリードについて
クリスティーお得意のミスリードさせる描写ももちろんあります。パルグレイヴ少佐がマーブルの後ろを見て、マープルに見せようとした写真を引っ込める場面。ここはクリスティはかなり注意して描写したと思います。
またヴィクトリアがモリーにセレナイトの壜の話をして、そのあとモリーとティムがそれについて会話するシーン、そしてモリーとティムがグレアム医師に話に行くシーンなども慎重に書かれてあります。ですが、それが成功しているとは言い難いと思います。
パルグレイヴ少佐の目
パルグレイヴ少佐の目の話。確かに最初にパルグレイヴ少佐の紹介シーンで書かれてあります。ですが、あまりにさらっと書かれてあります。それが森の中に木を隠す的な工夫なんでしょうけれど、これはややアンフェアな感じを受けます。
ここは逆に大胆に強調してもよかったのではないでしょうか。
噂の発生源
噂の発生源がどこなのかもポイントです。マープルがここにきてから聞いた話の半分は犯人の口から出たものだったろうと、最後に言っていましたが、それを示すような描写がそれほどなかったように感じます。
後々振り返ると、途中で犯人が事実と違うことを広めようとしている場面がありました。読んでいる最中、私も少し違和感を感じました。ですが、そのたくらみはその場面では成功していないようでした。なのでなんかよくわからないな、という感じで、読み進めていました。
犯人は噂を広めることにかけては右に出る者はいない、とマープルは言います。ならそれが成功している描写をするべきでしょうが、直接的にそれが描かれている場面はなかったような気がします。
不満点
振り返って考えると、犯人はもっと簡単に目的を達することができたのではないかと思います。途中もう一押しあれば、完全犯罪になっていたであろう場面がありました。嫌疑を自分から外すためとはいえ、どうなのでしょう。
少し論点がずれていますが、ラフィールもそれについて言っています。それに対して、殺人者というのは例外なしに単純さを嫌う。凝ったやり方をせずにはいられない、とマープルは言います。いや、それは強引すぎませんかね。
感想
思いのほか不満点が出てしまいましたが、スピード感はあって、あっという間に読み進められました。読後感もさわやかです。最後のエピローグで旅で知り合った人たちと別れるシーンはベタですが、ジーンとしました。
テンポよく話が進むと言いましたが、ふらふらしている印象もあります。話は次々と展開しますが、一本道ではなく、右へ行ったり左へ行ったりどうも定まらない印象です。
思わせぶりなだけで、本筋には影響しない場面がいくつかありました。それを話の深みととらえるか、冗長ととらえるかで評価が変わりそうです。
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