概要とあらすじ
1963年のポアロ長編33作中29作目。
タイピストのシェイラ・ウェッブは依頼人のミリセント・ペブマーシュのもとに向かった。指示されたように居間で待っていたのだが、柱時計が三時を告げたとき、ふと周りを見ると男が胸を刺されて死んでいるのを発見して…という話。
みどころ
とてもコミカルな作品です。登場人物たちがミス・マープルのセント・メアリ・ミードの住人のような朗らかさがあって、楽しく読み進めることができました。
殺人があった周りの家を、順々に訪問して話を聞いていくのですが、それぞれの住人に個性があって、飽きさせません。特に猫屋敷に住んでいるミセス・ヘミングと、わんぱく小僧たちのお母さんであるミセス・ラムジイのくだりが面白かったです。
他作品とのつながり
今でもリエージュの石けん工場主のことが想い出されてくる。ブロンドのタイピストと結婚したくて、細君を毒殺した男なのだ。
このくだりは、ヘラクレスの冒険の「ネメアの谷のライオン」と、「ヒッコリー・ロードの殺人」でも語られました。
その時は、チンが誘拐された事件だったのだが、型は同じだった。
これはヘラクレスの冒険の「ネメアの谷のライオン」です。
登場人物について
調査をするコリン・ラムがいい味を出しています。真面目な青年のようで、なかなか口が悪い。割と辛辣な発言も多いです。かと思うと、アパートに住むゼラルディンに対する態度は、紳士のようです。
ポアロとのからみも面白いです。ポアロの叱咤にイラッとしているところが、現代の若者っぽくて人間味を感じます。
この人物に好感を持つことができたので、本当に飽きずに読むことができたと思います。
犯人とトリック
犯人を特定する証拠がほとんどありません。ポアロの言うあの一言が、犯人の決め手というか、推理のとっかかりになるのかもしれませんが、普通に読んでいたらそこに気づくのも難しいでしょう。
時間が一時間ずれている時計の謎も、それが魅力的な分、真相にややがっかりはします。ですが、
「Yの悲劇」におけるマンドリンのオマージュととらえれば、許されるような気がしないでもないです。
舞台の設定上仕方ありませんが、全員を集めて犯人を指摘することができません。それならせめて直接犯人に相対してほしかったです。そして、ばれた時の反応などを見たかったです。
ですがこれに関しては、そのあとで一つ別の驚きがありましたので、プラスマイナスゼロですかね。これをしたかったがために、あえて直接犯人に指摘をしなかったのではないかとも思います。
まとめ
「アガサ・クリスティー完全攻略」でめちゃくちゃにこき下ろされていましたが、私的にはそれほどひどいとは思いませんでした。現場周りの人たちのやり取りは、とても面白く読むことができました。
思うところと言えば、これはポアロ物ではなく、マープル物の方がよかったのではないかということです。安楽椅子探偵的なところは、マープルの方が似合っているような気がしますし、周りの住民のとぼけた感じがマープル的だと思います。
本格推理小説として読み、真剣に犯人を探り出そうとすると、アンフェアなような気がします。ですが、私としては推理風の味付けがある読み物として、それなりに楽しめました。
コメント