概要とあらすじ
1944年発表のノンシリーズですが、「茶色の服の男」「開いたトランプ」「ナイルに死す」に出てきたレイス大佐が登場します。
一年前に亡くなったローズマリー。自殺と処理されていたが、夫のジョージのもとに、彼女の死は他殺であるという手紙が届き、彼は疑いを持つ。そしてローズマリーが亡くなった状況を再現するためにパーティを催すが、その席上で…という話。
みどころ
ローズマリーが亡くなった時に同席していた面々の、回想が行われる第一章が面白いです。なにやら重苦しく、冷たい雰囲気が全体に流れています。
特によかったのはスティーブン・ファラデーの章後の、アレクサンドラ・ファラデーの章です。二人の想いの食い違いが、なかなかに恐ろしいです。
第二章の最後には、驚きの展開が待っています。そして第三章では、本格的な謎解き推理小説の味わいが感じられます。
登場人物について
登場人物はみんな魅力的です。これは第一章で、それぞれの想いを一人一人しっかり描いてくれたからこそだと思います。それぞれの登場人物の、区別がつかなくなるようなことはありません。
「みどころ」でも書きましたが、スティーブンとアレクサンドラの二人の気持ちのすれ違いが面白く感じました。しかし、それは第二章で、早々に解消されてしまいます。それがちょっともったいないと感じました。もっとひっぱれたんじゃないのかなぁ。
あとはレイス大佐です。「茶色の服の男」ではあんなにキャラが立っていて、ダンディで格好よかったのに、どうもこの作品では影が薄いです。
アンソニー・ブラウンを諜報部員属性にして、それを引き立てるためだけに出てきた感じです。何だかなぁ、という感じです。
犯人とトリック
犯人はなるほどと思わせる人物でした。納得です。伏線もしっかり効いてきて、その鮮やかさには美しさも感じます。
トリックに関しては、まぁそんなものかな、という印象です。ですが、
ウェイターがカバンを拾って置き間違えたことで、席が入れ替わってしまい、アイリスを殺すつもりだったのが、ジョージを殺してしまった、というのは、どうなんでしょう。
それはちょっと無理がありませんかね。そこがちょっと納得いかないです。
感想
とても面白く読むことができました。特に第一章を読んだ段階では、期待がものすごく膨らみました。第二章になると少し落ち着きましたが、それでも最後の展開には驚かされました。
そして第三章に入ると、本格的な謎解き小説の展開になります。あーでもない、こーでもない、と言っていた謎が、最後にバタバタと解かれる様子は鮮やかです。
ですが、なんというのでしょうか、第一章を読み終えた時点では、ローズマリーの死に幻想的なイメージがありました。それが最後には全くなくなってしまい、普通の推理小説として終わった感じです。
もちろん推理小説というのは、そういうものではありますが、とはいえ、絵を見て感動しているところに、構図がどうだとか、色の組み合わせ方がどうだとか、分析をきかされて、なんか興ざめしてしまう感覚です。
エピローグで「彼女はもうここにはいないね」と霊的な話をしています。最後の最後でそれを持ちだすのなら、その雰囲気を第三章全般で出していてほしかったですね。
あとは、犯人との直接対決がなかったのも、物足りなさを感じた原因かとも思いました。犯人は魅力的な人物です。その正体がばれて、うろたえたり、あるいは開き直って本性をさらけ出したりするなどが欲しかったです。
本作でも最後はハラハラの展開が待っています。ですが、そうじゃないんですよね。やはり犯人には面と向かって指摘してほしいと思うんですよね。それがあれば最後にぐっと盛り上がって、より印象深く感じられるのではないでしょうか。
とまぁ、色々文句を言いましたが、それでも第一章は本当に素晴らしいです。そこから後半に従ってやや落ちていくものの、高い水準を保った作品だとは思います。
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