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七つの時計-アガサ・クリスティー 感想

4.0
七つの時計 アガサ・クリスティー

概要とあらすじ

1929年の作品です。1925年の「チムニーズ館の秘密」の続編的な作品で、舞台や登場人物が共通しています。

チムニーズ館に宿泊する若者たち。その中で一番寝坊をするジェリー・ウェイドに対していたずらをしようと、仲間たちは目覚まし時計をこっそり彼の部屋に設置した。しかしその朝も全く変わらず起きてこない。様子を見に行くと、ジェリーは睡眠薬の飲み過ぎで亡くなっていた。そして8つ設置していたはずの目覚まし時計が7つしかなく…

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みどころ

軽妙な会話のやり取りが楽しいです。ケイタラム卿とバンドルのやり取りはもちろんですが、その他の登場人物たち同士のやり取りも面白いです。

謎の組織「セブンダイヤルズ」なるものが出てきて、子供っぽい作り話感があります。ですが、登場人物たちが「スパイ小説の読み過ぎじゃないかね」や「僕の読んだ小説では~だよ」みたいな、セルフ突っ込みがありますので、いい意味でのバカバカしい雰囲気になっていると思います。

そして事件の真相です。終始コメディタッチで進んでいましたので、より一層この真相にはゾッとさせられました。その意味ではこの作品は、思いのほかテクニカルな作品です。ですが、構えて読むのではなく、気楽な感じで読むのがいいでしょう。そのギャップにやられること間違いなしです。

登場人物

なんといってもバンドルが魅力的です。前作の「チムニーズ館の秘密」ではやや活躍が少なかった、そのうっ憤を晴らすかのような大活躍です。「秘密機関」におけるタペンスと一卵性双生児的なキャラクター。クリスティお得意の元気な女の子で、好印象です。

前作「チムニーズ館の秘密」でも、なかなかいいキャラをしていたロマックスですが、今作の終盤でとんでもないことになるのにも注目です。いやぁ、驚いた。

前作「チムニーズ館の秘密」の登場人物たちのキャラが、より深く掘り下げられているように感じます。「チムニーズ館の秘密」は先に読んでおくべきでしょう。

犯人とトリック

時計が七つに減っていた理由。セブンダイヤルズのトップ、ナンバー7の正体とは。そしてジェリーとロニーを殺害したのは誰なのかという謎があります。

時計が七つに減っていた理由は、正直子供だまし。苦笑いしてしまうレベルです。ナンバー7や犯人の正体は、確かに驚かされました。ですが単に驚かされた感じで、あまり納得感がないんですよね。

やはりこういうのは、アリバイなどで物理的にありえそうにない人物を創造しておいて、実はその人物がそうだったのだ、とするから驚きと納得感があるのです。

今回の場合は、心情的にありえそうにないという人物はいますが、そういう物理的にありえそうにない人物がいませんでした。なので驚きはあっても、納得感が少なくなってしまったのだと思います。

とはいえ真相がわかると、全体の見え方ががらりと変わる構成は、本当に感心しました。これはすごいです。

バンドル、ジミー、ロレーンの三人が最初に会った時、互いが本心を隠しながら話している描写や、検死審問が終わった後、ジミーがロレーンに電話した内容、ロニーのダイイングメッセージの意味なども、真相がわかった後では、内容が全く違って聞こえます。面白いですね。

感想

とても楽しく読めました。登場人物たちのキャラクターが楽しく、このメンバーの続編をもっと読みたいと思いました。タペンスとキャラ被りしていますから、トミー&タペンスものをシリーズ化したことにより、こちらが続かなくなってしまった感じでしょうか。

ただ犯人を追い詰める論理展開が、ほとんどなかった点が少し残念でしたかね。明かされた犯人の正体にびっくりするものの、知らない間に犯人が捕まっていて、ちょっと物足りない感じです。やはり面と向かって犯行を指摘して、犯人にはうろたえるなり開き直るなりしてもらいたいですね。最終盤の展開をもう少し工夫すれば、もっと面白くできたのではないかとも思いました。

多少気になる点はありますが、終始コメディタッチで、だからこそ犯人の怖さや恐ろしさが浮かび上がる展開。これが完全に成功したかどうかは怪しいですが、ユーモア推理小説の一つの理想形ともいえそうです。読み返してみると、細部にまで気を使って書かれてあり、かなりテクニカルな小説です。

楽しく読めて、後で感心できるという、1粒で2度おいしい小説でしたね。

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