概要とあらすじ
1943年のミス・マープル長編12作中3作目です。クリスティー自身がお気に入りと言っている作品です。
村の住民たちにあてて、中傷に満ちた匿名の手紙が届けられる。そんな中、名士の夫人が毒をあおって自殺する。いったい何が起こっているのか…という話。
みどころ
読後感はさわやかです。いろいろなことが全て上手くいき、めでたしめでたしという感じです。
クリスティー作品ではおなじみですが、この作品でもカップリングが成立します。いつも作品なら唐突に成立しがちですが、「動く指」ではそのカップリングに多めに筆が尽くされています。シンデレラストーリー的な話ですので、そういうのが好きな人はいいかも。
そしてこれは推理小説です。殺人が起こり、犯人がいます。もしかするとそのシンデレラ自身が犯人かもしれない、という疑惑もあります。その意味でも大きく感情を揺さぶられるかもしれません。
トリックと犯人について
犯人は意外な人物でした。そして犯人がわかると同時に、的を外した中傷の手紙の謎が解けるというのも、なかなか気持ちのいい展開です。
トリックに関しては判明した直後は、そんなことかぁ、という感じでしたが、後々思い返すと、煙幕を払うと単純な事件が浮かび上がるという仕掛けは、なかなかに鮮やかだと感じました。
登場人物について
登場人物のキャラは、ちょっとぶれている感じがしました。一番キャラが立っていると思われるミーガンでさえ、もう一歩足りない感じがします。
原因は、ジェリーが最初からミーガンに対して、好意的な見方をしていたからです。これが最初は町の人たちと同じような見方をしていたのに、徐々に、あるいは何かのきっかけで印象が変わったみたいな話があれば、もっと深みが出たように感じます。
シェークスピアのやり取りがそれといえばそうかもしれませんが、それにしても序盤も序盤のやり取りなので、それをもっと中盤に持ってきたほうがよかったのでは? そしてその前段階では、変な女の子がいるなぁ、といった偏見の目で見ていた描写があれば、その後の展開ももっと意外性をもって読み進められたと思います。
そのため電車でロンドンにミーガンを連れていくシーンなんかは、意外性というより、唐突な感じがしてやや興ざめのような感じも受けました。
家庭教師のエルジーについては、見た目は美しいけれど、しゃべるといまいちという設定でした。なんでそんな余計な設定を付け加えたのだろう。素直に美しい人だけで良かったのではないでしょうか。その余計な設定のせいで、ジェリーの心の動きの振れ幅が少なくなってしまったとも言えます。
妹のジョアナも面白そうなキャラをしているように感じましたが、あまりそれが表に出てこないような、内弁慶的な感じを受けます。もっと村の人たちと遣り合ったら面白そうなのに、割とおとなしいんですよね。
感想
登場人物たちにいまいち思い入れを持つことができませんでした。本来なら盛り上がるべき「ロンドン行き」の場面ですら、正直読んでいる最中、なんかつまらないなぁ、と思いながら読んでいました。
その反面、意外な犯人やトリックは良かったです。推理小説だから、そこが良ければいいんじゃないかとも思いますが、クリスティー作品に関しては物語も期待してしまうんですよね。
登場人物たちに思い入れを持つことができなかったため、個人的な評価は若干低めです。
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