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愛の旋律-アガサ・クリスティー 感想

3.0
愛の旋律 アガサ・クリスティー

ウェストマコット名義の第一作。推理小説ではありません。ヴァーノン・ディアの半生を描いた小説です。

まずプロローグを読んで「???」という感想。ある音楽家が現れたが、その評価が定まらない様子。すごい批評家がでてきて、その音楽家を天才だと評します。そういわれても、やはりピンときません。音楽を文字であらわすのは、難しいですね。

そんなこんなで、話は巻き戻ってヴァーノンが子供のころから話がつづられます。最初のころはヴァーノンの精神世界の話が多いので、正直退屈です。かなり苦労して読みました。

ジョーとセバスチャンが出てきて、ようやく物語が前に進みだします。この辺からはかなりスピード感があるので、どんどんページが進みます。

タイトルにもあるように恋愛小説なんでしょうが、あまりその恋愛がうまく書かれているかというとそうでもない印象です。

ヴァーノンとネルが急にくっつきすぎ。せっかくの幼馴染なんだから、じわじわと気持ちが近づくようにするべきじゃないかと思うんですが、久しぶりに会ったら美人になっていました、というもの。なんかなぁ。

形はジェーンとの三角関係なんでしょうが、あまりそれも機能していない印象です。三角関係なら対等な立場になるべきでしょうが、ジェーンとネルでは、ジェーンの格上感が強すぎて、ただ単にヴァーノンが、気分次第でふらふらしているだけになっています。

少しはそういう場面はありましたが、ジェーンとネルの対決的なものがもっとあった方が面白かったのではないでしょうか。

あと、主人公のヴァーノンになかなか感情移入できないです。あまりに自分勝手です。まぁ、だからこそ天才なのかもしれませんが。

最後の二者択一の場面。なぜそちらを選んだのかの理由が書かれていません。そしてそちらを選んだのにかかわらず、それを手放すという理由も書かれていません。もやっとします。まぁ、愛というものはそういうものなんでしょうかね。

ある程度は面白く読むことはできましたが、いろいろなところでほころびを感じます。推理小説的な、一部の隙もない展開を期待すると裏切られるかもしれません。

いつものクリスティの推理小説では、登場人物は作者によって制御されなくてはいけません。ですがこの作品では、ヴァーノン、ネル、ジェーン、ジョー、セバスチャン、といった登場人物が意志を持ち、作者の意図を越えて動きまくった感じです。

気分転換に思うがままにペンを走らせるという小説を、書いてみたかったのかもしれませんね。

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