概要とあらすじ
1921年に発表されたフィルポッツの最初の推理小説で、不可能犯罪と超自然現象をテーマにした異色の作品です。
物語は、チャドランズ屋敷にある「灰色の部屋」と呼ばれる閉ざされた部屋で起こる不可解な死をめぐって展開します。この部屋では、過去に二人の人間が外傷もなく死亡しており、その原因は謎に包まれていました。
そしてその謎に挑戦しようと、屋敷の主ウォルター卿の娘婿トーマスがその部屋で一晩過ごすと言い出し…という話。
みどころ
様々な登場人物たちが「灰色の部屋」で一晩を過ごすと言い出します。それを止めようとする者と、進もうとする者とのやり取りが面白いです。
特にすごいのは、最初のトーマスとヘンリーのやり取りです。これは本当にすごいです。理屈のこね具合が半端じゃありません。まさに言葉での殴り合いという感じです。
「霊の存在を信じていない人が行くよりも、多少その可能性があると感じている自分が行けば、仮に霊がいるとしたら、己の存在を知らしめようと、友好的に接してくれるはず…」などというあたりは、もはや笑ってしまいます。
その他の人物も「灰色の部屋」に入るために、理屈をこねるのですが、これが面白い。絶対にダメなのに、その話を聞くと、まぁ、そういうことなら仕方がないかなぁ、とも思えてしまうのが不思議です。
登場人物について
どの人物も魅力的です。やはり強烈なのはセプティマス・メイです。話すのは狂信的な内容ですが、話を聞いているうちに、ウォルター同様にだんだん引き寄せられていきます。実際の霊感商法とかも、こんな風に洗脳されていくんだろうなぁ、と恐ろしいものを感じます。
ウォルターも面白い人物です。それまで何事も苦労なく生きてきた人物ということもあるのでしょうけれど、考え方があっちに行ったり、こっちに行ったりします。それが全く不自然なく描かれているのは、フィルポッツの筆力でしょう。
犯人とトリック
ここはかなり問題です。ミステリーのルールを、逸脱していると思う人が多いでしょう。実際に、私も事の真相がわかった時は、「……」となりました。このわくわくしていた気持ちをどうしてくれるんだ、とも思いました。
ですが、この小説の魅力はそこではないと割り切るしかありません。そこに至るまでの過程が、本当に面白かったですから。その犯人とかトリックについては、理屈で納得できる範疇であるなら、それで承知するしかありません。
そういうことも含めて、古典ミステリーでしょう。
まとめ
この作品は、古典的なミステリーとしては冗長で退屈な部分もありますが、意表をつく展開や驚くべき結末が魅力です。また、フィルポッツのイタリアへの憧れや神秘への傾倒が強く反映されており、彼の個性的な作風を楽しむことができます。ただし、ミステリーのルールを重視する読者には不満や不快感を与えるかもしれません。
私はこの作品を読んで、フィルポッツの他の作品にも興味を持ちました。特に、「だれがコマドリを殺したのか?」や「闇からの声」という作品が気になります。フィルポッツは、「赤毛のレドメイン家」で有名ですが、それ以外にも魅力的な作品があることを知りました。
以上、イーデン・フィルポッツの「灰色の部屋」について紹介しました。この作品は創元推理文庫から出版されています。興味のある方はぜひ読んでみてください。
コメント