概要とあらすじ
1969年のポアロ長編33作中31作目。
ハロウィーン・パーティが終わった時ジョイスという子供が、水の入ったバケツに首を突っ込まれて殺されていた。ジョイスはパーティの準備中に「あたし、前に人殺しをみたことがあるのよ」と、周りに言っていた。犯人はそれを聞いて、口封じのためにジョイスを殺したのだろうか…という話。
みどころ
最初のハロウィーン・パーティの様子が楽しいです。子供たちが大騒ぎする様子や、大人たちが準備にてんてこ舞いになる様子などが、とても楽しく描かれています。未来の旦那が鏡に映るというゲームに興じる女の子と、それを一歩引きながらも温かい目で見つめるオリヴァ夫人の様子もいいです。
風景描写もいいです。マイケル・ガーフィールドが作った石庭は、ポアロとともにゆっくり眺めていたい感じがしました。この風景描写によって、現実離れした感覚に陥ります。これもまた伏線になっているようにも思います。
そして終盤のミランダをまわりのあれこれ。いろいろな感情がやってきて、それを制御できませんでした。ジェットコースターに乗っているような気分です。
登場人物について
登場人物に関しては、圧倒的にミランダが印象に残っています。子供なんですが、妙に品のある感じが微笑ましいです。そして、ポアロを家に連れてくるときに、子供ならではの抜け道を通っていく幼さ。そして刺のある植物を抑えてあげるやさしさもいいです。
珍しい甲虫の標本をつかまえた収集家のような、控えめだが誇らしげな調子で告げた。「ちゃんとおじさまをつかまえてきました」
ここも、面白いですね。とても魅力的です。
ただそれ以外は登場人物が多すぎです。「登場人物」として紹介されている以上の人物が出てきます。ある程度まとめてみましたが、これでもまだ入り切っていません。
というのも昔の殺人事件として、四つも触れられているからです。やり過ぎでしょ。
トリックと犯人について
ジョイス殺害のトリックに関しては、完全に犯人の術中にはまってしまいました。ポアロの説明を聞いたうえで読み返すと、明らかにそういう描写がありました。これはちょっと雑に読んでしまっていたかもしれません。丁寧に読んでいたら気づけていたかもしれません。
ですが下手に勘ぐって読んでいたら、その驚きを損していたので、これはこれで良しという感じです。
オルガ・セミノフ関連のことも、完全にわかっていませんでした。これもポアロの言うとおり、パターンは限られていますので、丁寧に考えていれば、その考えに届いていた可能性はありました。
とはいえ、このように雑な読み方になってしまうのも、ある意味無理はないと思います。殺人が多すぎるので、そこに意識が集中しないからです。これはクリスティーの作戦でもあったでしょうけれど、やや冗長すぎる感は否めません。
犯人像はちょっと面白かったです。このパターンの犯人像は、クリスティーにはあまりなかったように感じます。やや力技的なところもありますが、ちゃんとこの犯人像を成立させるために、それなりの言葉を尽くしている感じはありました。
四つの言葉
ポアロはミス・エムリンに四つの言葉を書きます。そのうち、二つの言葉はエムリンも同意見だそうですが、残りの二つは「どうもむずかしゅうございますわね」とのことです。さて四つの言葉とは何だったのでしょうか?
おそらく「ジョイス」「レオポルド」「ジャネット・ホワイト」「シャーロット・ベンフィールド」「レズリー・フェリア」を殺した、犯人の名前でしょう。この辺、もう少しわかりやすく書いてもらった方がよかったのでは?
とにかく、ポアロはこれらの殺人犯人として、四人の名前を書いて、エムリンに渡したと思います。
そしてそのうち「ロウィーナ・ドレイク」と「マイケル・ガーフィールド」の二人について、エムリンは同意したのでしょう。
残りの二人、つまり「ジャネット・ホワイト事件」と「シャーロット・ベンフィールド事件」の犯人について、エムリンは分からないと言ったのだと思います。
ちなみにポアロは残りの二つは、何と書いたのでしょうか。気になりますね。
他作品とのつながり
死者のあやまち
「おばさまを、ぜひ殺人のからんだ事件にひっぱりこみたいな。今夜、このパーティで殺人が起こって、それをみんなに解かせるとか」
「いえ、結構よ」とミセズ・オリヴァは言った。「二度とごめんだわ」
これは「死者のあやまち」の話です。
マギンティ夫人は死んだ
ポアロは事件の手がかりを探すため、スペンスと会います。かれは元警視ですが、「マギンティ夫人は死んだ」に出てきました。マギンティ夫人殺人事件をポアロに依頼した人物ですね。
そして「マギンティ夫人は死んだ」の登場人物について、少し語っています。この辺は、先に「マギンティ夫人は死んだ」を読んでおくと、その後日談みたいな感じで楽しめます。
ヘラクレスの冒険
彼の心は、自分で “ヘラクレスの冒険” と名づけた、遠い過去の事件にたちもどった。
これは「ヘスペリスたちのりんご」で見たイニッシゴーランの風景だと思われます。
感想
最初のパーティ部分は楽しく読むことができました。中盤の調査パートは、正直つらかったです。たまにある幻想的な風景描写など見るべき場面はありましたが、話が前に進んでいるのかよく分からない会話が続き、義務感でページをめくるようなところはあります。
ですが終盤、ミランダをめぐるあれこれは、かなり感情を揺さぶられました。ここでグッと盛り上がります。
これ、ミランダ殺されるやつだわ。→あぁ、大丈夫だった。→やっぱり殺されるやつだ…。あれ? もしかしてミランダ自身が犯人? →え? どういうこと???
感情の動きとしては、こんな感じでした。はっきり言って、この作品のメインはここでしょう。この興奮を味わうための、「中盤の退屈さ」だったまであります。
事件の真相も、それなりに驚きがありましたので、締めも程よく満足です。
気になる点としたら、物語の構成として、レオポルドを殺す必要あったの? ということと、やはり過去の殺人が多すぎる点です。森の中に木を隠す的な作為がクリスティーにはあったのでしょうが、それならそれなりの魅力的な肉付けが欲しかったかなぁ、というところです。
ただ、そういうことも吹き飛ばす、終盤の盛り上がりで高評価をつけたいと思います。
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