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蒼ざめた馬-アガサ・クリスティー 感想

3.5
蒼ざめた馬 アガサ・クリスティー

概要とあらすじ

1961年のノンシリーズです。ポアロやマーブルは出てきません。ですが、オリヴァ夫人は出てきます。

ゴーマン神父は、ミセス・デーヴィスから死の間際に懺悔を受ける。そこで耳にした人名をメモして、家に帰る途中で、誰かに撲殺される。メモは靴の内側にしまわれていたため、残されたままだったが、そこに書かれていた名前にはどういうつながりがあるのかわからず…という話。

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オカルト的描写

降霊術や呪いといったオカルト的な内容が中心となって、話が進みます。クリスティーの作品には、降霊術の話は時々出てきます。しかしその内容は、そういったオカルトを信じる人を滑稽に描くような感じでした。(シタフォードの秘密、もの言えぬ証人など)

ですが、「蒼ざめた馬」はそれらの作品とは少し毛色が違います。

語り手のマーク・イースターブルックが、最初は「信じられない」というスタンスだったのが、だんだん「絶対にないとはいえない」となり、「もしかするとあるかもしれない」、「そうに違いない」と変わっていきます。それと同調するかのように、読者の私たちもその雰囲気に飲み込まれていきます。

降霊術の会の描写はなかなかに引き込まれます。ちょっと恐ろしいです。それが終わって一息ついたのも束の間、ジンジャが病気になっていくくだりも、なかなかにゾッとします。

みどころ

語り手のマーク・イースターブルックが、いい味出しています。友人のハーミアから子供のように扱われたり、医師のコリガンからちょっとバカにされたりして、へこんでしまうところが面白いです。

ダークな雰囲気の中に、そういったコミカルな話が挟まっているのですが、これが邪魔にならずいい感じになっています。むしろスイカに塩をかけると、より甘さを感じるように、より不気味さというか不安な雰囲気をこの作品から感じました。

そして登場人物がみんな良いです。ブラッドリイの言質をとらせない、物の言い方も面白いですし、ポピーの馬鹿さ加減も面白い。ジンジャもローダもキャルスロップ夫人もいい。

今回は特に、オリヴァ夫人もいい味を出しています。最後の急いでいるマークに対して、なかなか結論を言わない言い回しが最高です。

コンピューターが人間にとって代わるのか

途中、「コンピューターが人間にとって代わるのか」という話がありました。そこで「労働の単位にすぎないような人間」にはそうだろうが、「管理者である人間、思考者である人間」は「機械に解答を求める質問を考え出す」から、そうはならない、と言っています。

これって、「AI の発達で、人間の仕事が奪われてしまうのでは?」という、今の問題と同じですよね。60年もの前から同じようなことが言われているんだなぁ、と面白かったです。

意外な犯人

犯人は意外な人物です。まぁ、それはクリスティーに限らず、推理小説としては普通の話です。ですが、今回に関しては、それが残念な方向だったように思います。むしろその人物以外なら、誰でもよかったようにも思いました。

登場人物はみんな一癖も二癖もあります。そんな中で、よりによってそいつかぁ…という人物でした。まぁ、これは個人的な好みになるかもしれませんが。

結末

事件が解決して、めでたしめでたしという、いつものパターンです。特に「蒼ざめた馬」では、オカルト的な雰囲気が重苦しく覆っていました。そのため、最後の最後でその霧が晴れた感じがして、読後感がよりすっきしているように思います。

そう考えると、クリスティーとしては、このすっきり感を出すために、あの犯人を設定したのかもしれません。

ただ、それも良し悪しです。今回に関しては、何か割り切れない感じのまま終わっても良かったようにも感じます。それだけダークファンタジー的な雰囲気は良かったです。

「死者のあやまち」について

アリアドニ・オリヴァが登場します。彼女が前にかかわった事件である「死者のあやまち」に触れています。なので先に「死者のあやまち」を読んでおけば、オリヴァ夫人の話に奥行きが出るかと思います。

感想

面白くは読めました。この暗い雰囲気は、短編「死の猟犬」で見られたものと同じです。それを長編で、じっくり味わうことができた満足感はあります。それだけに犯人が不満です。

最初は少し取っつきづらかったです。ですが、だんだん引き込まれていきました。そして最後でガクッとと落とされた感じです。

読後感はすっきりです。それはそれで良かったようにも感じます。ですが、もやっとした終わりも捨てがたいような気もします。好みでしょうが、私は最後に少し評価を落として、☆3.5 とします。

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