概要とあらすじ
ディクスン・カーがカーター・ディクスン名義で発表した、1938年の作品。
結婚の許しを得ようと恋人メアリーの父親であるエイヴォリー・ヒュームを訪れたジェイムズ・アンズウェル。しかし出されたウィスキーソーダをくちにしたところ、気を失ってしまった。目を覚ましたとき目にしたものは、エイヴォリー・ヒュームの死体だった…という話。
みどころ
謎が魅力的です。完全な密室もそうですが、それに付随する小さな謎も魅力的です。なぜ結婚を祝福していたように見えたエイヴォリーが、急に冷たくなったのか。メアリーはなぜ心配そうな顔をしたのか。矢の羽根はどこに消えたのか。などなど。
そして何よりメリヴェール卿の言う「ユダの窓」とは何か、という謎が気になります。
法廷物で、訴追側と被告側で論戦を交わします。圧倒的に不利だと思われていた被告側ですが、オセロの色が変わるように、一つ一つ覆されていく様子が痛快です。
キャラクターについて
なんといってもメリヴェール卿が面白いです。ちょっと気難しいおじいさんですが、ところどころで可愛らしさが垣間見えます。
ただそれ以外の人物がかなりの薄味です。そのために犯人の驚きが薄くなってしまったように思います。ちょっともったいないかなぁと思いました。
犯人とトリック
犯人自体はそれほどキャラづけされていないので、多くの登場人物のうちの一人という感じ。ですが、その動機に関しては、納得のいくものでした。その点はかなり美しさを感じました。
犯人が判明するときは、その情けなさも相まって、哀れさを感じます。
感想
最大の興味事と言ってもいい「ユダの窓」が、正直肩透かしだったのが残念です。もっと心理的な盲点を突いた、ものすごいものを期待していたので、少しがっかりしました。それまでのこまごまとした謎の解決が鮮やかだった分、余計にそう感じました。
とはいえ、いろいろな人たちの思惑が絡み合って、不思議な状況ができてしまうという流れや、それらの謎が一つ一つ覆っていく様は見ていて面白かったです。
結局見せ方の問題なんでしょうね。「ユダの窓」を単なる謎の一つにしておけば、そこまでの落胆はなかったようにも思います。ちょっと演出方法に失敗している感はありますが、まぁそれなりに面白く読むことはできました。
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