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リスタデール卿の謎-アガサ・クリスティー 感想

3.5
リスタデール卿の謎 アガサ・クリスティー

1934年にイギリスで刊行されたもので、12作の短編が収録されています。ポアロやマープルといった特定のキャラの作品ではなく、いわゆるノンシリーズの作品です。

明るく読後感が良い話が多かった印象です。特に「エドワード・ロビンソンは男なのだ」と「日曜日には果物を」が面白かったです。暗い系では最後の「白鳥の歌」が印象に残りました。最後の一言は、短編集の最後を飾るという意味でも、ちょっとしんみりしますね。

リスタデール卿の謎

ヴィンセント夫人は、豪華家具付きの美しい屋敷を格安で借りることができた。しかし、その家主のリスタデール卿の行方が分からない。ヴィンセント夫人の息子ルパートは、リスタデール卿は殺されて屋敷の秘密の場所に隠されている、と推理するが…

感想

オチは分かりました。まぁ、よくあるやつですね。ですがそのベタさが逆によかったです。ヴィンセント夫人とバーバラ、そしてルパートの三人のやり取りが楽しい。特にルパートがしょんぼりしてしまうところは、笑えますね。読後感は良かったです。

ナイチンゲール荘

アリクスは同僚のディックではなく、ジェラルド・マーティンと結婚した。アリクスは幸せに過ごしていたが、変な夢を見たことから、不安感にさいなまれる。ある日庭師のジョージが「明日ロンドンにお出かけなるんでしょう」と言うが、アリクスにはそんな予定は全くなく…

感想

いろいろ深読みしすぎて、それのせいで驚かされました。それもクリスティの作戦だったとしたらすごいです。さすがに違うか…。コミカルな出だしから、だんだんとホラーになる感じが面白いです。

車中の娘

伯父に勘当されたジョージは独り立ちをし、誰も知らない街に向かうため、電車にのりこむ。すると突然若い女性が「かくまってください」と彼の部屋に飛び込んでくる。追っ手をうまく追い返した後話を聞くと、「訳は言えないが、あそこにいる黒いひげの男の後をつけて、行く先を教えてほしい」とのこと。ジョージはその男の後をつけるが…

感想

パーカー・パインの話にも同じようなものがあったなぁ、と思っていたら、オチも似たような感じでしたね。「秘密機関」や「茶色の服の男」のような感じで、楽しく読むことができました。ジョージのキャラがいいです。

六ペンスのうた

マグダレンの叔母ミス・クラブトリーが殺された。犯人は一緒に暮らしていた4人の誰かに違いない。サー・エドワードはマグダレンの依頼にこたえて、みんなから話を聞くが…

感想

エドワードがマグダレンの依頼を受けるかどうかと、迷っているあたりの描写がなかなか面白かったです。事件そのものは大したことはありませんが、マグダレンとエドワードの関係性が、なにやらふわふわした感じで興味深いです。「謎のクィン氏」にでもありそうなトーンですね。

「ポケットにライ麦を」と同じ童謡が出てきて、その辺もまた感慨深いです。

エドワード・ロビンソンは男なのだ

エドワード・ロビンソンは懸賞で得た賞金で、衝動的に車を買って、それを乗り回していた。車を降りて魅力的な景色を眺めた後、また車に戻り出発したのだが何やら変だ。似ているのだが、どうやら別の車に乗ってしまったらしい…

感想

とても楽しい話でした。似たような話は「パーカーパイン登場」にもありましたよね。エドワードの心理描写が抜群に面白いです。クリスティは女性を描くのがうまいと評判ですが、こういう男性の描写もうまいです。ノーリーンとの最後のシーンもうっとりさせますね。

事故

メロウディーン夫人が、かつて殺人容疑で裁判にかけられて無罪放免となったアンソニー夫人だったことに気づいたエヴァンズ。彼女の無罪判決に疑問を持ったエヴァンズは、彼女の次に起こすであろう犯罪を防ごうとして…

感想

あっさり終わってしまいましたが、それなりに面白かったです。メロウディーン夫人とエヴァンズの対決的なものも、なかなかひりひりしています。深読みしてあれこれ考えてしまいましたが、全部外しました。

ジェインの求職

ジェインは怪しげな新聞広告につられて、指示された場所に向かった。なんとその内容は、ポーリン皇女殿下の身代わりをすることだった。チャリティー会場からの帰りに誘拐する計画があることを知ったポーリンは、ジェインを身代わりにして入れ替わったのだが…

感想

ホームズの「赤毛組合」や、アルレーの「わらの女」と同じような感じですね。定番と言えばそうですが、面白かったです。解決があまりにあっけないのですが、それは短編なんでしょうがないですかね。

日曜日にはくだものを

ドロシーとテッドはデート先でかごに入った果物を購入した。ふたりして、その果物を食べていくと、なんとかごの底には宝石のついたネックレスがあった。新聞によると、パリから書留で発送された五万ポンドのネックレスが盗まれたというのだが、そのネックレスがこれなのか…

感想

ドロシーとテッドのやり取りがとてもいい。二人の感情が一晩のうちに、それぞれきれいにひっくり返るのが面白い。ドロシーが宝石に魅了されていく感じも、素晴らしいですね。読後感も素晴らしく、ほんわかします。

イーストウッド君の冒険

作家のイーストウッドのもとに「早く来て。あなたが来てくれなかったら、殺されてしまう」と電話がかかってきた。アイデアに困っていたイーストウッドは、半ばやけっぱちな気持ちで待ち合わせの場所に向かうのだが…

感想

割と予想外の展開で楽しめました。イーストウッドが飄々として、なかなかのやり手なのだが、それを逆手に取られる展開が面白いです。

彼女はそう言った。何が起きても……ということは、つまり彼女は──

そのあと、「いかん」と自分を戒めるイーストウッドがいいですね。

黄金の玉

ジョージ・ダンダスは伯父のレッドベター氏と喧嘩をしてしまい、家を追い出されてしまった。そこにやってきた社交界の花形メアリ・モントレッサー。彼女とドライブをすることになり、偶然見かけた、いい感じの家を覗いているとそこには…

感想

ジョージのキャラが面白いです。結構無茶なことをやっているようで、実はそれなりに考えて行動しているというのがわかる場面に感心しました。

ラジャのエメラルド

ジェイムズは彼女のグレイスと一緒にキムトン海岸にやってきたのだが、さえない宿屋に泊まるはずの彼女はジェイムズを見捨てて、友達がいる高級なエスプラナード・ホテルに泊まることにした。疎外感を味わうジェイムズだったが…

感想

ジェイムズのキャラがいい。正直者だが喧嘩っ早くて、それでいて内省的なところもあります。ひょんなことからトラブルに巻き込まれて、それに翻弄されているうちに…というあまりにもという展開に呆れる部分もありますが、ジェイムズの心の動きが面白くて読ませますね。

白鳥の歌

有名なオペラ歌手のポーラ・ナツォルコッフはラストンベリー夫人の招待で「トスカ」のオペラを行うことになった。ところが上演直前にスカルピア役のロスカーリが腹痛で歌えなくなってしまった。たまたま近所に引退したバリトン歌手のブレオンがいたので、彼に代役を願い…

感想

オペラの場面の描写はすごいですね。すごい臨場感と緊迫感があります。「謎のクィン氏」の「道化師の小径」と似たコンセプトでしょうか。話のオチは予想はつきますが、それは気になりませんでした。ある意味予想通りの展開に、最後の一言がきれいにはまる感じでしたね。

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