「愛の探偵たち」は、1980年に早川書房より刊行されたアガサ・クリスティの推理小説の中短編集で、表題作の英題はThe Love Detectivesです。
底本は1950年に刊行された短編集「Three Blind Mice and Other Stories」です。この短編集は、中編「三匹の盲目のねずみ」以下、7つの短編、計8編からなります。エルキュール・ポアロが2編、ミス・マープルが4編、ハーリ・クィンが1編という構成になっています。
私的なお気に入りはマープルものの「奇妙な冗談」と、ポアロものの「四階のフラット」です。どちらもコミカルな感じが楽しいです。
三匹の盲目のねずみ
モリーとジャイルズの夫婦は、ゲストハウスの経営を始めた。そこにやってくる少し奇妙な客たち。そしてさらに警官がやってくる。彼が言うには、近隣の待ちで殺人事件が起こり、次の殺人はこのゲストハウスで起こりそうだ…
感想
ゲストハウスの面々が、夫婦も含めて互いに疑念を抱き合うところが面白いです。こいつがちょっと怪しいなぁ、と思っていた人物が犯人でしたので、驚きは少なめ。トリックも予想通りでした。ここは余計なことを考えずに、素直に騙された方がよかった。
伏線やほのめかしがなく、新情報が突然明かされるところが少し気になりますが、全体的に楽しく読めました。終わり方もなんかよかったです。
奇妙な冗談
マープルもの。
おじさんが亡くなって、その遺産を受け継ぐチャーミアンとエドワードだったが、その遺産がどこにもない。全財産を金塊に変えて埋めておくみたいなことを、生前におじさんは言っていたのだが…
感想
「火曜クラブ」にも出ていた、ジェーン・ヒーリアがちょい役で登場。なんかうれしいです。マープルのとぼけた感じと、それにあきれるチャーミアンとエドワードが面白い。トリックはどこかで見たような気もしますが、気づきませんでした。読後感はいいです。
昔ながらの殺人事件
マープルもの。
ミス・ポリットがスペンロー夫人を訪ねたが、返事がない。通りかかったミス・ハートネルと一緒に家を覗くと、そこには息絶えているスペンロー夫人の姿が。巡査を呼びに行こうとしたその時、ミスター・スペンローが現れるが、彼には驚いた様子もなく…
感想
「牧師館の殺人」で、マープルの隣に住んでいる、ミス・ハートネルがちょい役で登場。コミカルな役回りで、楽しいです。途中まで楽しく読んでいましたが、急に犯人が明かされて、証拠も動機も後付けっぽい感じで、少し興をそがれた感じです。
犯人は「真相をつきつけられたら、とたんに泣き崩れるタイプ」とのことですが、それを口に出すのではなく、実践して見せてほしかったですね。
申し分のないメイド
マープルもの。
ミス・スキナ姉妹に仕える使用人グラディスが辞めさせられた。ブローチを盗んだ疑いのせいだった。その代わりに来たメアリは、非のつけどころのないメイドで、ミス・スキナ姉妹は大満足の様子だったのだが…
感想
メイドの名前がグラディスです。「ポケットにライ麦を」に出てくるメイドもグラッディスなので、同一人物かと思いましたが、本編はグラディス・ホームズで、「ライ麦」はグラッディス・マーティンでした。別人でしたね。
ミス・エミリーの言い回しが面白いです。人に気を使っている風で、実は自分勝手な性格がうまく表現できているように思いました。その他の人物たちの様子も面白く、田舎ののどかさと、いやらしさも楽しいです。
トリックはクリスティー作品でそこそこ見かけるものでしたが、今回も騙されました。このトリックはうまく使えば、驚きを簡単にもたらすことができますね。
管理人事件
マープルもの。
ハリー・ラクストンは資産家の娘ルイーズと結婚して、地元の村に帰ってきた。かつて父が住んでいて、今は廃屋と化している家を建て直し、新しい邸宅が出来上がった。管理人の年老いた老婆には、新しい家を与えて引退させたのだが、屋敷から追いだされた恨みを持ち、ことあるごとにルイーズに対して嫌がらせをするのだが…
感想
ヘイドック医師の手記という形式になっていますが、それって必要だったのでしょうかね。それなりに楽しめましたが、余計な演出のようにも感じました。殺人とすれば、あまりにも証拠を残し過ぎだろうという気がしますが、短編ならこんなもんですかね。
四階のフラット
ポアロもの。
パットは鍵をなくしてしまい、4階の自分の部屋に入れなくなった。友人のジミーとドノバンは、配達リフトを使って入り込もうと上ったが、階を間違えて3階のアーネスティーン・グラントの部屋に潜り込んでしまって…
感想
パットのポンコツぶりが楽しくて、かわいいです。そしてポアロが犯人をひっかける作戦が、なかなか鮮やかです。全然捜査が進んでいないように思えて、「次はありませんよ。事件は終わりました」と、いきなり終了宣言するところもいいですね。
ジョニー・ウェイバリーの冒険
ポアロもの。
ウェィバリー夫妻のもとに、子供を誘拐するという脅迫状が届いた。最初は悪ふざけだと考えていたが、何度も繰り返されるので警察に届けたのだが、厳戒態勢の中、予告された時間に子供の姿が消えてしまい…
感想
ポアロとヘイスティングズとの掛け合いが楽しいです。トリックと犯人はよくあるパターンですかね。ただ、真相に関係ある情報と関係ない情報の出し方がうまく、この辺はさすがクリスティーだなぁ、と思いました。
愛の探偵たち
クィン氏もの。
サー・ジェイムス・ドワイトンが自宅の図書室で殺されていた。調査をしていたメルローズ大佐のもとにやってきた妻のローラが、「私が殺した」と自供する。しかし、その供述は現場の状況と合わない。さらに少し前まで、その家に滞在していたデラングアという青年まで、自分が殺害したと自供しだす…
感想
まぁ、これは話の流れから、犯人やそのトリックは分かりました。クイン氏ものの恋愛的な雰囲気を逆手にしようとした感じはありますが、それが成功したとは言い難いですかね。でもサタース・ウェイトのキャラクターは大好きです。
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