概要とあらすじ
1939年の作品。探偵役が登場しない、ノンシリーズです。
U・N・オーウェンなる人物から、インディアン島に招待された10人の様々な人物。その食事後に、彼らの過去の犯罪を告発する声が響く。そしてその後、童謡の通りに、殺人が行われていく…という話。
感想
クローズドサークル物で、見立て殺人物です。
一人一人が殺されていきます。よくあるシチュエーションですが、これがその元ネタともいえる作品だそうです。しかし見慣れたパターンなので、今となれば少々ありきたりな感じがするのは否めません。
とはいえ、残り3人になった時の、お互いがお互いを探り合う場面や、残り2人になった時の、対決感はなかなか面白かったです。
最後に解決編として、犯人の手紙が残されて、意外な犯人が明かされます。しかし、正直それは、ふーん、という感じです。一人一人が殺されていく、サスペンス感だけでお腹いっぱいでした。
ミスディレクションについて
そしてクリスティと言えば、ミスディレクションです。それがこの作品にもあります。
鬘は床に落ちて、禿げ上がった前頭部があらわれ、そのまんなかに血のにじんだ丸い跡があって、そこから何かがしたたっていた。
1991年12月31日 63刷 ハヤカワ文庫 清水俊二訳 P201
この部分は意識的に表現をぼかしています。「穴」ではなく、「跡」となっています。また滴っているものを「何か」と、直接的な表現にしていません。
ですがそれに対して、その直後にもかかわらず、ミスディレクションが働いていないところがあります。
彼らはウォーグレイヴ判事の死体を彼の部屋に運んで、ベッドに横たえた。
1991年12月31日 63刷 ハヤカワ文庫 清水俊二訳 P203
「死体」と地の文で言っているのはアンフェアです。ここは原文ではどうなっているんだろう? おそらく「body」となっていると思われます。
body は「体」の意味ですが、「死体」の意味もあります。ダブルミーニングになっているんですね。それを翻訳者が「死体」の意味を取って訳したのでしょう。
これは「体」と訳すべきでしょう。それで十分伝わります。それを「死体」としたのは、翻訳者のミスじゃないでしょうか。
いや、実際のところどうなんでしょう。ネットでいろいろ検索しましたが、よくわかりませんでした。
そういうミスディレクションの不手際があるため、[★3.5]と少し厳しめの評価にしました。でも、読み物としては、まぁまぁ面白いです。読んで損はない作品でしょう。
とはいえ、「そして誰もいなくなった」がクリスティの最高傑作かと言われると、個人的にはそんなことはないと思います。クリスティにはもっといいやつがあると思うんですけれどね。
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