概要とあらすじ
1941年のトミー&タペンス長編4作中2作目です。
ナチスの重要なスパイが、イギリスにいるらしい。男の「N」と女の「M」。その正体をさぐるため、彼らがいるのではないかと考えられる「無憂荘」に向かうよう依頼されるトミー。一方危険な任務だからと、それを知らされなかったタペンスは…という話。
みどころ
「無憂荘」の面々が面白いです。人畜無害そうな人たちが、ちょっとした拍子に見せる一面にドキッとさせられます。特に素晴らしいのが、ペレナ夫人とオルーアク夫人に階段の上下で挟まれるシーンです。これはすごいです。めちゃめちゃ怖いです。
そういうホラー的描写がちりばめられており、それがコミカルな雰囲気のアクセントとなって物語が引き締まっていると思いました。
あとはアクションシーンです。ベティが誘拐されて、その犯人を追い詰めていく場面は、かなりハラハラさせられました。ここはすごかったですね。
トミーとタペンスがスパイを見つけるために、あれこれと仕掛けをうったり、逆にスパイ側が何かを仕掛けてきたりと、お互い腹の探り合い的なやり取りも、なかなかひりひりする感じで面白かったです。
登場人物
みんな本当に魅力的です。一番はやはりオルーアク夫人とペレナ夫人かな。真相がわかってから、再度読み返すと、いろいろ面白いです。あとはベティ・スプロットですね。だんだん言葉を話せるようになっていく感じが、とても可愛らしいです。
そしてなんといっても、タペンスです。前回の「秘密機関」のときより年齢を重ねている分、落ち着きと分別があって、頼りになります。
犯人とトリック
犯人というか「M」の正体は、意外でした。完全に意表を突かれました。途中怪しいな、とは思う場面はありました。ですが、そのうちに容疑から外してしまいました。話が動的なので、ちょっとした違和感は、流れて行ってしまうんですよね。
「N」の方のトリックもなかなかです。確かに言われてみれば、そうすることによって、疑われることがなくなります。そのワナに自分も引っかかっていました。
感想
トミーとタペンスが、使えない扱いされる中年になっているのにびっくりです。「秘密機関」が1922年ですから、その実際の年数とリンクするなら19年後になります。あの若々しい少々無鉄砲なトミーとタペンスもよかったので、その点ではちょっと残念に感じました。
「秘密機関」と「NかMか」の二作品の間を埋める「おしどり夫婦」という短編集を先に読んでおくべきだったかと、少し後悔しています。とはいえ、今作の少し落ち着いたトミーとタペンスも、なかなか好感が持てます。
前作の「秘密機関」はかなり取っ散らかった内容でしたが、「NかMか」はコミカルな描写やユーモアもありながら、しっかりとまとまっています。目に見えぬ敵との知力を振り絞った対決という感じで、とてもスリルとサスペンスを感じる良作だと思いました。
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