概要
1957年作のミス・マープル長編12作中の7作目です。
並走する電車の車窓に殺人の瞬間を見たという、マクギリカディ夫人の話をだれも真剣に取り合わない。それを聞いたミス・マープルが、調査に乗り出す…という話。
人物相関図
みどころ
ミス・マープルの調査パートが面白い。まるで時刻表トリックを探る十津川警部のようです。実際には時刻表トリックはありませんでしたが…。クラッケンソープ家に潜入する、ルーシーも面白い。死体を発見するまでの捜査が、なかなかに秀逸です。
死体が見つかったものの、それが誰なのかわかりません。誰なのかがわからないので、殺された動機もわかりません。そんなふわふわした状態で最後の方まで進みます。
捜査はあまり進展しないですが、それなりに物語は面白いです。
特に面白かったのは、男性たちがそれぞれルーシーに言い寄る場面です。特にルーザーの場面は、なんというのでしょうか、頑固老人特有の素直になれない感じと、それを巧みにかわすルーシーのやり取りがよかったです。
登場人物について
登場人物たちが、それぞれ個性的です。
当主のルーザーはひねくれた老人です。最初はうざい存在ですが、だんだんそのひねくれ加減がかわいらしくなってきます。不思議なもんですね。
ただ、身内が死んだときの態度には、違和感を感じます。あそこで少しでも悲しげなそぶりがあれば、もっと親しみを感じられたのですけれど。
次男セドリック、三男ハロルド、四男アルフレッドもそれぞれ性格が違います。とはいえ、セドリックとアルフレッドが少しわかりづらかったですかね。アルフレッドをもっと悪い感じにしてもよかったと思いました。
次女の夫のブライアンは、普通のいい人。あまりクラッケンソープ家の人間と絡まないので、よくわからない。個性的なメンバーの中では、逆に特徴がないのが特徴ともいえそうです。
ブライアンの子供アレグサンダーとその友人ジェィムズ。この二人は独自に殺人事件を嗅ぎまわります。丁度この本の前に「ねじれた家」を読んでいたので、そこに出てくるジョセフィンが探偵のまねごとをしているのと被り、いろいろ思うところがあります。
長女のエマはとても感じの良い女性です。それだけに推理小説的には怪しいです。
犯人とトリックについて
犯人は確かに意外な人物ですが、ちょっと拍子抜けです。その動機や真相も、少し唐突感が否めません。
犯人を指摘するマープルの策略が面白いところですが、これももう一歩かなぁという印象です。確実性がないというか、切れ味がないというか、それ一本でいくの? という感じ。まぁ、マープルかっこいいけれど。
おまけ要素?
実はこれだけでなく、最後にもう一つ謎があります。それは「ルーシーが誰と結ばれるのか?」です。
普通に考えると、セドリックかジェイムズのどちらかです。そして「豚小屋」のキーワードから考えると、セドリックになります。事実初期プロットでは、セドリックと結ばれることになっていたそうです。
まぁ実際は、どちらかを読者の想像に任せた感じなんでしょう。でもそうすると、最後の「彼の方に目をぱちぱちとやって見せた」というのは、なんなんですかね? 最後のこの流れは、クラドック警部を指していますよね。
そしてルーザーと予想する人もいるらしいです。本当にそう思っているの?
ファンの中でも結論が出ていないこの問題。こういうプレゼントを最後に残していくクリスティのサービス精神がうれしいですね。
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