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愛国殺人-アガサ・クリスティー 感想

3.0
愛国殺人 アガサ・クリスティー

概要とあらすじ

1940年のポアロ長編33作中19作目。

歯の定期健診を終えて、家に帰ったポアロのもとに、先ほど診察を受けた歯医者が、その直後に自殺したという連絡が入る。とても信じられないポアロが調査を開始すると、同じく診断を受けていたギリシャ人が亡くなり、元女優が失踪して…という話。

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登場人物について

登場人物が面白くないです。特にアリステア・ブラントがいまいちです。堅物という設定なのでしょうが、ポアロとの会話が面白くないんですね。

グラディスも、ジョージイナも、フランクも、セインズバリイ・シールも、ハワード・レイクスも、バーンズも、みんなちょっと面白そうではありますが、いまいちです。全体的に説教くさい感じがあって、読んでいて疲れます。

そんな中、ジェインのキャラクターはいいです。「まるで連載小説みたいね? 次回のお楽しみは何?」なんてしゃれた返しです。ですが、思ったよりも彼女は表に出てこないんですね。それが残念です。

アルフレッドの証言と予約状況

せっかくなので、アルフレッドの証言と予約状況を照らし合わせてみましょう。アルフレッドが、名前を間違えすぎているのが面白いです。

赤字はライリイ青字はモーリイ担当の患者です。

「小さい女の子をつれた女の人」
10:00 ベティ・ヒース

「ソープ夫人とかいう人」
10:00 ソオムズ夫人

「一人年をとった婦人が、ちょっといばって、高級車できた」
10:30 グラント令夫人

「背の高い軍人さん」
11:00 アバアクラムビイ大佐

「あなた」
11:00 エルキュール・ポアロ

「アメリカ人 早くきすぎちゃったんです。十一時じゃなきゃあの人の番じゃないのに──おまけに、その時間になったら、もうどこにもいなかったんですよ」
11:30 ハワード・レイクス

「ロールスできた偉い人」
11:30 アリステア・ブラント

「女の人が入ってきた。ミス・サム・ベリイ・シールとかなんとかいったっけ」
ミス・セインズバリイ・シール

「一人は妙な震え声の小さい人でしたけど。名前を忘れちゃいました。その人はライリイ先生の患者」
12:00 バーンズ

「もう一人はモーリイ先生の方で、太った外国人」
12:00 アムバライオティス

「残った夫人はシャーティーさんでした」
12:30 ミス・カービイ

「ネヴイルさんの男友達が来た…十二時少し過ぎ」
フランク・カーター

アリステア・ブラント狙撃事件

アリステア・ブラントは二回狙撃されます。それぞれは何があったのでしょうか。

一回目の狙撃

一回目はダウニング街の官邸からの帰り道に狙撃されました。そこにはハワード・レイクスがいて、実際に発砲した人物ではない、間違った人物を取り押さえてしまいます。

間違った人物を取り押さえたことは、あとでハワード・レイクスの言うところによると、インド人を逃がすための芝居でした。ですが、狙撃自体は本当に計画されて行われたことなんでしょう。

ではなぜハワード・レイクスはその場所にいたのでしょうか。閣下が出てくるのを見張っていたと言っていますが、何のために見張っていたのでしょうか。「ラム・ラルが彼を狙って撃ったのを見つけた」と言っています。ということはこの狙撃自体には、ハワード・レイクスは関係しないのでしょうか。

なんかよくわかりません。

二回目の狙撃

二回目はブラントの庭園で起こります。

これは実際には、フランク・カーターに罪をかぶせるための、ブラントによる策略でした。

ハワード・レイクス自身は、ブラントは撃たれるべき人物だと考えていますが、実際目の前で人が撃たれようとしたら思わず助けてしまったようです。その言葉を信じると、いいやつですね。

実際はブラント家に取り入ろうとして、計算ずくで行ったことなのでしょうかね。

ポアロについて

この作品のポアロは好きではないです。

フランク・カーターを見捨てようと考えたり、アリステア・ブラントの言い分にある程度理解を示したり、なんか偏っているんですね。

そして最後のアリステア・ブラントとの対話でも、かなり説教くさかったです。

他の作品でも説教くさい場面はありますが、政治的な偏りを見せられた後なので、あまり腑に落ちない感じがありました。

まぁ、「愛国殺人」ですから、仕方ないんですかねぇ。

トリックについて

モーリイ殺しがメインではなく、アムバライオティスとセインズバリイ・シール殺しがメインだったという転換は、感心させられました。

しかし、そこに至る細かい作為は、本当に実現可能なの? と思わざるを得ません。

そもそもアムバライオティスの予約時間ってどうやって知ることができたの? そしてそれがわかったとして、その直前に予約を入れることってできるものなんですかね。まぁ、多少は融通はきかせてくれるでしょうけれど。

ですが、その予約段階ではセインズバリイ・シールは死んでいたんですよね。いや、予約がうまく入れられたから、セインズバリイ・シールを殺したんでしょうか。

あと、チャップマン夫人としての履歴を、歯医者に残しておかないといけませんよね。それってどの段階で行ったのでしょうか。セインズバリイ・シールに声をかけられてからでしょうか。それともたまたま同じ歯医者だったということ?

ブラントがセインズバリイ・シールに声をかけられたのが、歯医者のところだったわけだし、関係者が同じ歯医者なのは、偶然なのでしょう。そういった偶然が重なったからこそ、この殺人計画が思いついたということなんでしょうかね。

とはいえ、もう少し説明が欲しかったと思いました。

あと、フランク・カーターが、モーリイのところに入ろうとした時のことです。アムバライオティスが出て行って、「今だッ」と入って行こうとしたとき、別の紳士が出てきました。

この別の紳士はブラントですが、アムバライオティスが出て、それからブラントが出ていく間隔って、フランク・カーターの話では、そんなにないはずです。死体を元に戻してなんやかんやしているときに、フランク・カーターが入ってくる可能性もあったわけです。

いや、さすがにその間は鍵をかけてますかね。でもそんなことになったら、ブラントは外に出ていけなくなりますよね。どうするつもりだったのでしょう。

ここも説明不足かなぁと思いました。

ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人

ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人の話が出てきます。彼女は「教会で死んだ男」という短編集の「二重の手がかり」、「ビッグ4」、「ヘラクレスの冒険」という短編集の「ケルベロスの捕獲」にも登場しています。

時系列で言えば、「二重の手がかり」→「ビッグ4」→「愛国殺人」→「ケルベロスの捕獲」の順番です。

感想

謎自体はとても面白かったです。そして真相もそれなりに面白く感じました。ですが、そこに至るあれこれが、少しばかり冗長だったようにも感じました。

正直読んでいて疲れました。いろいろ説教くさかったなぁ、という印象です。

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