概要とあらすじ
1968年のトミー&タペンス長編4作中3作目です。
サニー・リッジと呼ばれる老人ホームに行ったトミーとタペンス。そこでタペンスはランカスター夫人という入寮者から「あれはあなたのお子さんでしたの?」という謎の言葉をかけられる。再びサニー・リッジを訪れたタペンスは、ランカスター夫人の言葉の真意を確かめようとしたが、なんとランカスター夫人はすでに退寮しており、その行方が分からない…という話。
みどころ
ホラー風味の味付けです。タペンスは相変わらず明るく前向きですが、だんだん物語の雰囲気にのまれてしまう印象です。「秘密機関」で見られたような、ドタバタコメディにはなりません。ですがそれはそれで、荘厳な感じがしてよかったです。
アルバートが活躍する場面もよかったです。少し下に見られているような人物が、思わぬ活躍をするというのは痛快ですよね。あとはエイダ叔母さんの昔が語られるところが、ほっこりさせられます。
「あれ? 何かおかしいな」と違和感を持ち、その直後にハッと真相に気づく感じが、タペンスと感情が同調したようで、物語の中に入り込んだ感というか、臨場感みたいなものがあります。なかなか怖いです。
登場人物
なんといってもエイダ叔母さんが強烈です。トミーとタペンスがお見舞いに行った時の様子は、すごいですね。よくもあんな無茶苦茶なことが言えるものだと、逆に感心します。すぐに亡くなってしまい、表舞台から姿を消すのが残念です。
その後思い出に登場したり、手紙で存在感を出したりしますが、もっと彼女に活躍の場が与えられてほしかったです。
その他の人物たちは若干薄味ですかね。「秘密機関」「NかMか」であれだけ存在感を放っていたタペンスですら今回は薄めです。その意味では少し残念です。とはいえ話全体が暗い雰囲気ですから、その雰囲気を壊さないという意味では、その方がよかったかもしれません。
ですがそうだとしたら、この話はトミー&タペンスものである必要はないのではないか、とも正直思いました。
犯人とトリック
犯人の正体がわかる場面は、かなりびっくりさせられました。そしてかなり怖いです。それまでにもいろいろ怖い描写がありましたが全部フリで、「これが本物だったのか!」という驚きがあります。
犯人像としては、なかなか面白く感じました。ですが、もっと深堀りできないかとも思いました。
「この発言が、ここに繋がっているのか!」と、読み返してあらためて犯人の恐ろしさを感じるのが、推理小説の楽しみの一つですが、それが「親指のうずき」では、あまりにも少ない。
ランカスター夫人が失踪してしまうという物語の構成上仕方がありませんが、彼女の登場シーンが少ないためです。
なんかもったいないです。こちらを立てれば、あちらが立たずという感じになってしまうので、なかなか難しいところですね。
感想
「ランカスター夫人を探す」という最初の目的からだんだん離れていき、一体に何に向かって進んでいるのかわからなくなります。犯罪組織うんぬんの下りは、必要なかったようにも思います。ですがそれがあるからトミー&タペンスものという気もしないでもないです。
ただこの話は、正直トミー&タペンスものである必要はないと思いました。「無実はさいなむ」に似たダークな雰囲気がありますので、同じようにノンシリーズでよかったようにも思います。
とはいえ、「その後、トミーとタペンスはいまなにをやっています?」という読者の声にこたえる形で、クリスティーが書いてくれたことを考えると、そんなことを言うのは野暮なのかなぁとも思いました。
犯人の正体がわかるくだりは、本当によかったです。それだけになんかちぐはぐというか、かみ合わない感じがしてもったいないなぁ、という印象です。
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