概要
1954年出版の戯曲です。演劇の初演は1953年。また「情婦」という名前で1958年に映画化されています。原形は1933年の短編集「死の猟犬」にある、同名の「検察側の証人」です。
短編と戯曲で結末が違っています。クリスティは戯曲の結末に自信を持っていましたが、むしろ短編のままでいいのではないかという、周りの抵抗もあったようです。
結果として戯曲「検察側の証人」は大成功をおさめ、クリスティはこの作品を自作の劇の中で最も好きな一つである、と言っています。
あらすじ
レナード・ボウルはひょんなことから富豪のエミリー・フレンチと出会い、頻繁に家に招かれる関係になる。ところがフレンチは何者かに撲殺され、レナードにその嫌疑がかかる。自分のアリバイを証明するのは、妻のローマインしかいないのだが…という話。
みどころ
絶望的な状況から、どう巻き返すのかという興味で、どんどん読み進めることができます。出てくる情報がどれもこれもレナードにとって不利なものばかり。それを無邪気に話すレナードが面白いです。
戯曲の形式で書かれていますので、会話が多くかなり読みやすいです。舞台を意識して読むと、劇を見ているような感覚にもなることができますね。
登場人物について
レナード・ボウルがいいキャラをしています。母性本能をくすぐる系の、ちょっととぼけた感じがする純朴な好青年という感じ。それに対比するような妻ローマインのつかみどころのない冷たい雰囲気が不気味です。
ローマインとウィルフリッド卿の会話は、なにやら怖くて背筋が凍りますね。
犯人とトリックについて
短編集「死人の鏡」の「検察側の証人」をすでに読んでいたので、犯人とトリック自体に驚きはありません。でも読んでいない人なら驚くでしょうね。言われてみれば確かにそうだなぁ、という感じです。
戯曲によって替えられた結末については、私的には短編の結末のままでいいんじゃないかなぁ、と思いました。ですが実際に演劇で見た場合、そういう結末があっているような気もします。舞台映えがしますからね。
感想
戯曲という形式を食わず嫌いしていましたが、面白く読むことができました。会話中心でかなり読みやすいと感じました。そもそもクリスティは会話に定評がある作家ですものね。
戯曲での結末は、個人的には短編の結末の方が良いと思いました。ですが、その戯曲特有の結末を導くための伏線がきちんと仕込まれていることに、後で気づくことになります。その辺の描写はなかなか見事です。
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