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謎のクィン氏-アガサ・クリスティー 感想

3.5
謎のクィン氏 アガサ・クリスティー

概要

アガサ・クリスティーの「謎のクィン氏」は、1930年に出版された短編集で、神秘的な探偵ハーリ・クィンと人生の観察者サタースウェイト氏が登場する12の物語からなります。

クィン氏の登場する作品は他に、短編集「愛の探偵たち」の「愛の探偵たち」と、「マン島の黄金」の「クィン氏のティー・セット」があります。

またサタースウェィト氏は、ポアロ長編9作目の「三幕の殺人」にも登場します。サタースウェィト氏のキャラクターをつかむ意味でも、先に「謎のクィン氏」を読んでおく方がいい気がします。

クィン氏は、いつも不思議なタイミングで現れては消えていきます。彼の名前は、道化師を意味するハーレクインに由来しています。この作品は、アガサ・クリスティーが自身の霊感体験をもとに書いたと言われています。幻想的でロマンチックな雰囲気が魅力的な一冊です。

私的には「海から来た男」がベスト、ついで「道化師の小径」ですかね。面白いというより、不思議な読後感で心に残りました。

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クィン氏登場

ケープルは食事の際に「大っぴらに発表はできないが婚約したんだ」と言った。とてもはしゃいだ様子だったのだが、その後二階に上がると、なぜか拳銃で自殺してしまった。そのわずかの間に何があったのか…

感想

クィン氏の一言一言が、登場人物たちの記憶をよみがえらせ、真相に一歩ずつ近づいていくという流れが面白いです。サタースウェィト氏がドアを閉めるときの「だが、その閉め方は、きわめてゆっくりしたものであった」というのも、なかなかおしゃれですね。

窓ガラスに映る影

アンカートン夫妻のパーティに集まった人々。その中には最近結婚したスコット夫妻と、スコット氏とかつて関係があったスタヴァトン夫人が含まれていた。その二人を一緒にすると、何かまずいことが起こるんじゃないかと、シンシア夫人は心配するが…

感想

トリックについて、細かいことをあれこれ言うと野暮ですが、子供だましというかなんというか。ただ、話の筋としては、後味が悪くなるのではないかと思わせておいて、きれいに落ち着いたという感じです。

道化荘奇聞

お金持ちのエリナ・ル・クートーと結婚したハーウェル大尉。しかしある朝、口笛を吹いて庭を歩いているのを最後に姿を消してしまった。彼は殺されたのか? それとも…

感想

かなり強引に話をまとめた印象です。この手のトリックはうまくやれば「うわぁ、だまされたー」となるのですが、今回はなんかもう一歩だったかな? まぁ、メァリーの幸せを願うばかりですね。

大空に現れた兆し

ヴィヴィアン・バーナビーは射殺され、彼女とかつて関係があったマーティン・ワイルドに有罪の判決が下った。しかしサタースウェィト氏には、どうしてもかれがそんなことをするようには思えなくて…

感想

ルイーザの証言で、トリックは分かりました。だからと言って、がっかりしたわけではなく、むしろ喜びの方が強かったです。そしてサタースウェィト氏の活躍している感じが、楽しいです。

「わたしは頭が弱いから、頭の弱い人がどうふるまうかがわかるのよ」というシルヴィアが面白いです。あと、最後にクィン氏がいなかったのも美しいと思いました。

ルーレット係の魂

ザーノヴァ伯爵夫人に惹かれる、若き青年フランクリン・ラッジ。サタースウェィト氏はそれを似つかわしくないと感じ、心配もしていたが、自分の出る幕でもないと思っていた。そんな中ルーレットで、ザーノヴァ伯爵夫人とサタースウェィト氏は大勝負に出て…

感想

なんというかちょっといい話でした。ザーノヴァ伯爵夫人の気位の高い女っぷりがなかなかです。フランクリン・ラッジが夢から醒めるようになる場面も面白いですね。

海から来た男

サタースウェィト氏はアントニー・コズデンという男と出会う。彼は年の割には若い、どちらかと言うと成長しきれていない、未熟な感じに思われた。話をしていると、どうやらその男はある決心を胸に、ここにやってきたようで…

感想

非常に感傷的で幻想的な話。なんというかハッピーエンドと言えばそうなんでしょうけれど、未熟さゆえの美しさがある一方、危うさも感じられて不思議な感覚になります。前夫のことも含めて、収まるところに収まりすぎて、逆にイヤミス的な感覚を覚えました。

闇の声

ストランリー夫人の娘、マージャリーは妙なものが見えたり、聞こえたりするそうだ。その話をきいたサタースウェィト氏は、マージャリーに会って、その謎を解決しようとするが…

感想

ストランリー夫人の奔放な感じが面白いです。二人の容姿があまりにも違っていたことに気づいたラストが、あまりに悲しいです。

ヘレンの顔

ジリアン・ウェストをめぐって、フィリップ・イーストニーとチャーリー・バーンズが争っていた。やがてジリアンはバーンズと婚約することになり、それをイーストニーに伝えると、思いのほかあっさりと理解してくれたようだが…

感想

これは、トリックを見抜くことができました。あっさりした話でしたね。ジリアンを助けに行くサタースウェィト氏の様子は、なかなかに緊迫感がありました。

死んだ道化役者

チャーンリー卿の新婚旅行からの帰りを祝っている舞踏会が開かれた。そこで、人が声をかけるのを無視して、チャーンリー卿は階下の広間を通り過ぎ、樫の間へ入っていった。そして鍵をかけて一分後に銃で自殺をした…

感想

絵画の中にクィン氏らしい人が描かれていたり、突然現れて、誰にも気づかれずに姿を消したりするところが、クィン氏により一層幻想的な雰囲気をまとわせています。事件の謎自体は、「まぁ、そんなもんかなぁ」という程度ですが、クィン氏の立ち位置が面白かったです。

翼の折れた鳥

マッジ・キーリーに招かれたサタースウェィト氏は、そこでメイベル・アンズリーという魅力あふれる女性と出会う。兄弟が事故や、自殺で亡くなった不運な一家の末娘だったが、「これから幸せになろうとしている」と言う。ところが、次の朝首を吊った姿が発見され…

感想

犯人の動機の独特さは面白く感じました。ただそれを表現するには、ページ数が足りていない気がします。もっと深く突き詰めれば、かなり魅力的な犯人像が出来上がるような気もしもした。

世界の果て

「世界の果て」と呼ぶコチ・キャベェエリにやってきたサタースウェィト氏は、女優のロジーナ・ナンと出会う。彼女は昔、美しい色をしたオパールを持っていたが、あるときそれを盗まれてしまった。それを盗んだ取れされる男は、逮捕されたが…

感想

なんかめでたしめでたしみたいになっていますが、それってどうなん? と思ってしまう結末です。とはいえ、クィン氏があらわれる場面、そして消えていく場面は幻想的で、美しさを感じます。コルシカ島に行ってみたいと思わせられます。

道化師の小径

サタースウェィト氏はデンマン家に滞在していた。そこでは仮装舞踏会を行うことになっていたが、事故があって頼んでいた本職の舞踏家が出られなくなり、急遽アンナ・デンマンが踊ることになるのだが…

感想

なんとも不思議な話。芸術に対する神話性とか超人性とかそういう、「愛の旋律」のコンセプトに近いものを感じます。結局、「中国風の漆塗りの衝立て」が意味するところは何なのか? いろいろな解釈ができそうですが、サタースウェィト氏と同様、逃げて行ってしまう。

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