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【感想】「ポケットにライ麦を」-マープルの義憤が物語を動かす

4.5
ポケットにライ麦を アガサ・クリスティー

概要

1953年のミス・マープル長編12作中6作目です。

本作は、クリスティーが好んだ マザー・グースの童謡をモチーフにした作品のひとつです。『そして誰もいなくなった』や『ねずみとり』と同じく、童謡の構造を事件の骨格に組み込むという手法が使われています。

あらすじ

投資信託会社の社長レックス・フォテスキューは、毒を飲まされて死んでしまった。どうやら朝の食事に毒を入れられたようだが、誰がそんなことをしたのだろうか? そしてレックスのポケットには、なぜかライ麦の粒が入れられていて…

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個人的評価

みどころ

最初の会社の様子が読んでいて楽しいです。つんと澄ましたミス・グローブナーが、事件が起こったとたんにアタフタする様子が面白いです。医者を呼ぼうとしてみんながてんでバラバラなことを言いだし、話がぜんぜんまとまらないところも笑えます。

マープルがなかなか登場しません。それまではニール警部による捜査が続きやや退屈ですが、その分マープルの登場シーンは「待ってました」感があって、めちゃくちゃ格好いいです。

今回のマープルは胸に怒りを抱えて行動している含みもあって、いつもの飄々とした感じにもそれとない迫力を感じます。

そしてなにより、最後の手紙です。圧倒的な悲哀。いろいろな思いが駆け巡りますが、やはり最終的に哀しみに戻ってきます。ただただ哀しい。ここはクリスティ史上でもかなりの名場面でしょう。

登場人物について

  • ジェーン・マープル(独身の老人)
  • レックス・フォテスキュー(投資信託会社の社長)
  • アディール(レックスの二度目の妻)
  • パーシヴァル(レックスの長男)
  • ジェニファ(パーシヴァルの妻)
  • ランスロット(レックスの次男)
  • パトリシア(ランスロットの妻)
  • エレイヌ(レックスの娘)
  • ラムズボトム夫人(レックスの義姉)
  • アイリーン・グローブナー(レックスの秘書)
  • ヴィヴィアン・デュボア(アディールの男友達)
  • ジェラルド・ライト(エレイヌの恋人)
  • メアリー・ダブ(フォテスキュー家の家政婦)
  • クランプ(執事)
  • クランプ夫人(クランプの妻)
  • グラッディス・マーティン(小間使)
  • エレン(ハウスメイド)
  • ニール(警部)

登場人物たちが、みんな魅力的です。

一癖も二癖もあるレックス家の面々が面白いです。クリスティでは定番ですが、次男のランスロットのちょい悪な感じがいいです。エレイヌが大粒の泪を流す場面には、読んでいる自分自身がハッとされられました。

メインキャラ以外のサブキャラもいい味を出しています。ミス・グリフィスとミス・サマーズは最初出てきて、しばらく出番がありませんでしたが、また後半で登場します。ここはなんとなくホッと一息つける楽しい場面でしたね。

犯人とトリックについて

犯人は意外というわけではありません。多くいる容疑者の中の一人です。トリックも普通と言えば普通です。それほど驚きはありません。まぁまぁ面白いなぁ、という感じです。

ですが、この作品のメインはそんなところではありません。なのでマープルは犯人に向かって、直接犯行を指摘しません。犯人逮捕の瞬間もありません。真相をニール警部に語って、あとの証拠集めはよろしくね、と去っていきます。

犯人とトリックに焦点がいかない、とても珍しい作品です。

感想

物語としてはほどほどに面白いです。ニール警部の捜査パートは、やや退屈と言いましたが、章の切り替わりには「いよいよ、放蕩息子のご帰還か!」とか、「そうだ、つぐみだ──まちがえるなよ、つぐみだぜ」とか、それっぽい煽りがあって、それなりにページを進ませます。

犯人やトリックも常識の範囲内で、なるほどなぁ、という程度です。それなりに面白いですが、そこで終わっていれば、普通の平均的な推理小説という感じです。

ところが先ほど書いたように、メインはそこではないのです。

通常の推理小説は犯人指摘の場面で、一番の盛り上がりがあります。そしてつけ足しのようにエピローグがあって、登場人物のその後などが語られ、ほっこりして終わるのが普通です。

この作品はそうではありません。エピローグこそが一番盛り上がります。というよりエピローグにて一番の驚きすらあります。そして話の焦点が瞬間にして変わってしまいます。なんというか、おいしいところをすべて持って行った感じです。

推理小説としてはそれなりです。面白いのは面白いですが、そこまで飛びぬけての出来ではありません。ですが、それまでのことは何だったんだというくらい、最後の最後でとんでもなく心を動かされます。すごい小説です。

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