日本独自編集の短編集です。ポアロもの11篇、マープルもの1篇、怪奇もの1篇の計13篇。
ポアロのものは、ヘイスティングズとのやり取りが面白かったですね。私的には「コーンウォールの毒殺事件」「二重の罪」が面白かったです。特に「二重の罪」はコミカルな感じが楽しいです。
いろいろな作品の元ネタがあり、その意味でも楽しめました。
戦勝記念舞踏会事件
戦勝記念舞踏会に参加したクロンショー卿。仮装舞踏会なのでアルルカンに扮していたが、なぜか普段と違い不機嫌な様子。やがて仲間のそばから離れてしまう。いくら待ってもあらわれないので、みんなで探しに行くと、食堂でナイフに刺されて亡くなっていた…
感想
パンチネロ、ブルチネラ、ピエロとピエレット、アルルカンとコロンビーナ、といった仮装がどういうものか知っているかどうかで面白さが変わるのかな。計画的犯行にしては、行き当たりばったりすぎやしませんかね。ちょっと強引かなと思いました。
潜水艦の設計図
アロウェイ卿が所持している潜水艦の設計図が無くなってしまった。秘書が準備し、少し席を外した間に盗まれてしまったらしい。アロウェイ卿がみた人影なのか、それとも内部の犯行なのか?
感想
「死人の鏡」の「謎の盗難事件」の元ネタです。というかほぼ同じ話。メイドの手の位置について触れている分、「謎の盗難事件」の方が推理が論理的です。ですが、こちらの「潜水艦の設計図」の方が、コンパクトにきれいにまとまっている感じもありますね。
首相が誘拐された件は「ポアロ登場」の「首相誘拐事件」のことでしょうか。
クラブのキング
オグランダー一家は応接間でブリッジに興じていた。そこのフランス窓がぱっとあき、セントクレア嬢が飛び込んできて、「人殺しよ!」と告げた。セントクレアが言うモン・デジール荘に警官が向かうと、リード・バーン氏が後頭部を裂かれて亡くなっていた…
感想
トリックの作為がばれる経緯があまりにもばかばかしい。同じブリッジつながりでいえば、「開いたトランプ」の方が納得感がありますね。セントクレア嬢の正体は面白かったですが、もっと深みを出すにはページ不足かなと思いました。
マーケット・ベイジングの怪事件
プロザロー氏のもとにパーカー夫妻が遊びに来ていて、しばらく泊まり込んでいた。ある朝、家政婦のミス・グレッグがプロザロー氏を起こしに行ったところ、部屋から返事がない。警察と医者を呼んで部屋に入ったところ、頭部を撃たれて死んでいた。右手に拳銃を握り自殺のようだったが…
感想
「死人の鏡」にも同じコンセプトの話がありましたね。というか、こちらが元ネタなんでしょうか。「死人の鏡」の方にはいろいろな仕掛けがあり、この「マーケット・ベイジングの怪事件」の方は、シンプルで切れ味がよかったです。
二重の手がかり
マーカス・ハードマンは自宅でティー・パーティーを開いた。みんなが帰宅したあと確認すると、金庫が荒らされていて、中の宝石が盗まれているのに気が付いた。表ざたにせず、宝石を取り戻したいと、ポアロに依頼するが…
感想
ポアロのあこがれの人「ヴェラ・ロサコフ夫人」の初登場回です。
その意味で読みたかった作品でしたが、正直トリックとしては子供だましです。「二つ証拠を残すことはない」という理屈はどうなんでしょうかね。面白いと言えば面白いけれど、もう少し論理的にしてもらいたかったという気持ちもあります。
呪われた相続人
リムジュリア家には、長男が相続人になれないという祟りがあった。リムジュリア夫人は長男のロナルドがなんども事故にあい、危うく死にかけていることを心配し、ポアロに相談を持ち掛けるのだが…
感想
いやぁ、なかなか後味が悪い話です。最後のポアロの一言もなかなかです。「赤髪」に対する偏見があって、どうなの? という感じもしますが、ゾクッとさせられます。遺伝的な話はあまり好きではないのですが、この話を成立させるためなら、ありかなとも思いました。
コーンウォールの毒殺事件
ベンジェリー夫人は、夫から毒殺されかかっているのではないか、という不安があった。相談を受けたポアロは次の日に家に伺うと言ったのだが、実際次の日に家に到着すると、すでにペンジェリー夫人は亡くなっていた…
感想
面白かったです。人間関係が明らかになるにつれ、相談に来た時のベンジェリー夫人の様子の理由がわかる展開がいいです。犯人をひっかける策略は、子供だましのような感じもありますが、これはこれであり。犯人の裁かれ方も含めて、落ち着くところに落ち着いた印象です。
プリマス行き急行列車
プリマス行き急行列車の座席の下から、ルーパート・キャリントン夫人が刺殺されているのが見つかった。キャリントン夫人は接待パーティーに出席する予定だったが、乗り換えるはずのブリストル駅で急遽予定を変更して、メイドを駅に残しそのまま乗っていったらしいが…
感想
「青列車の秘密」の元ネタです。「青列車の秘密」の方は、余計な装飾がごてごてとして、正直まとまりがなかったです。その点この短編の方がシンプルで、切れ味がよく面白く感じました。短編向けのネタだったということですね。
料理人の失踪
トッド夫人の料理人のイライザ・ダンが、休日の日に家を出たまま失踪してしまった。そして次の日、使いの者が彼女のトランクを取りに来た。口論をしたわけでもなく、失踪の原因がわからず、トッド夫人はポアロに調査を依頼するが…
感想
つまらない事件かと思っていたら、思いのほか重大な事件だったという展開は、なかなか驚かされました。トッド氏の依頼を断る手紙と、それに対するポアロの反応も面白かったですね。
二重の罪
メアリー・デュラントは、貴重な細密画をウッド氏のもとに運ぶ途中だった。食堂で食事をしているとき、茶色の背広を着た人物が、彼女のものと思われるトランクを運び出すのを見る。慌てて確認すると、そのトランクは自分のものではなく、その人のものだった。安心するのもつかの間、細密画は盗まれていた…
感想
「ところがあいにく、そんな抜け作のうちの片方は、実際には抜け作ではなかった。その男はエルキュール・ポアロだったんだ!」というポアロの言葉が格好いい。と同時に、ヘイスティングズをバカにしているのも面白い。
怪しい登場人物がたくさんいる中、意外な犯人がしっかり設定されています。捜査パートかと思わせておいて、いきなり解決編に入ってくるところも驚きました。面白かったです。
スズメ蜂の巣
ジョン・ハリソンは、スズメ蜂の巣の処分を友人のラングトンにお願いしていた。ラングトンはガソリンを使って処分するように、ハリソンに言っていたようだが、劇薬購入者名簿にラングトンのサインがあるのをポアロは見ており、買った品物は青酸カリだった…
感想
これまでのようなコミカルなものではなく、重苦しい話でした。お涙ちょうだい的な話ばかりだと辟易しますが、このようにぽつんと置かれると、これはこれでいい。ちょっとしんみりしてしまいますね。
洋裁店の人形
アリシア・クームが店長をしている洋裁店の椅子の上に、何か奇妙な人形があった。誰がいつ買ったのか、あるいはいつ手に入れたのかもわからない人形だったが、目を離すと誰も触らないのに部屋のあちこちを移動している。怖くなったシビルは、仮縫い室のドアに鍵をかけてしまい…
感想
ポアロ物が続いていたので、その流れかと思っていたのですが、オチのテイストが全く違っていましたので、ある意味驚かされました。コミカルな感じから、徐々にホラー感が漂っていく流れが面白いですね。
教会で死んだ男
マープルもの
ハーモン夫人が教会の花瓶に花をいけていたところ、一人の男が死にかけているのを発見した。医者を呼んだものの「たのみます…」の言葉を最後に亡くなってしまった。その男の親類というエクルズ夫妻がやってきて、形見が欲しいと背広を持って帰ったのだが…
感想
犯人をひっかけるマープルの策略は面白かったです。まっとうな人間がいない中、ある瞬間から切なくも美しい話になっていくのは不思議な感覚です。読後感はさわやかです。
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