概要
1976年のミス・マープル長編12作中12作目です。ですが、執筆自体は1943年です。この作品はクリスティーが働けなくなった時に備えて夫に残した作品で、クリスティーの死後発表されました。執筆時期としては、マープルもの第三作「動く指」の後らしく、物語の時系列も、その位置で考えるのがいいかもしれません。
同じような制作過程のポアロもの「カーテン」は、明らかにポアロの最後の作品として書かれていますが、「スリーピング・マーダー」はそうではないからです。
あらすじ
ニュージーランドからやってきたグエンダは、家を探していた。自分の理想の家を探して、ようやく気に入った家を見つけた。ところが、どうも自分はこの家のことを知っているような気がして…という話。
みどころ
ところどころ見られるホラーの描写が面白いです。第二章の「壁紙」で、戸棚内部の壁紙の模様がわかるところは、ぞっとさせられます。
あとはアフリックの車についてあれこれ話しているところに、当の本人が後からヌッとやってくるところもなかなか恐ろしいです。
登場人物
かなり多くの人物が登場します。「元料理人」「小間使い」「家政婦」「子守り」や、「医師」「精神科医」「弁護士」など同じような属性の人物が紛らわしく、少し読むのに苦労しました。ハリデイ少佐とアースキン少佐もややこしいです。
とはいえ、みんなそれなりに描かれているように思います。
一番キャラが立っていたのは、やはりグエンダですかね。この小説は彼女の物語でしょう。マープルの影はかなり薄かったように思います。
犯人とトリック
犯人に関しては、完全に騙されました。クリスティーの手のひらで転がされていました。自分では見破ったつもりでいましたが、それすら操られていたということです。恐ろしいですね。
真犯人はたしかにそうなるなぁ、という人物で、トリックも納得です。かなり隙がなく、綿密に作られている印象です。
猿の前肢の謎が解けた瞬間に、犯人が現れるという展開もなかなか映像的に美しく、鮮やかでした。
気になる点
気になる点もいくつかあります。まずマープルが、この事件に深入りするのをやめるように言います。ですがそのあとで積極的にかかわろうとします。この辺の一貫性のなさが気になります。
グエンダの夫のジャイルズにあまり好感を持てませんでした。ジャイルズはマープルとは逆で、最初は事件に乗り気で、後々やっぱりやらない方がよかったのではないか、など言い出します。くじけそうになる妻をしっかり支える夫であるべきじゃないのかと思いました。
感想
それなりに面白く読むことができました。犯人に関しては完全にしてやられましたし、トリックも納得がいくものです。とはいえ、もうひとつ足りない感じがあります。なにか心に残るものがあまりないのですね。
第二章であったホラー感が全編にあればとか、マープルの活躍がもっとあればとか、グエンダとジャイルズの関係をもっとうまくやっていればとか、いろいろ思うところはあります。
あとはヘレンですかね。彼女をもっとうまく使えれば、哀しさを表現できたのではないかと思いました。なんかもったいない作品だと思いました。
コメント