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蜘蛛の巣-アガサ・クリスティー 感想

アガサ・クリスティー

概要

演劇の初演は1954年の戯曲です。悲しい役柄ばかりでうんざりしていた女優マーガレット・ロックウッドのために、軽いタッチのコメディをということで書かれました。ロングランを記録し、ウェスト・エンドにて「ねずみとり」「検察側の証人」と同時に三作品が上演されるという快挙を成し遂げました。

あらすじ

少し空想癖のあるクラリサ。平穏ではあるものの退屈に暮らしていたのだが、ある日夫の前妻と結婚したオリバー・カステローが彼女のもとにやってくる。カステローが言うには、妻ミランダが娘のピパを引き取りたいと言い出したとのことだが…

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みどころ

今日は楽しい殺人日
五月のように爽やかよ
村の探偵、総出です
みんな出かける、殺人に!

これは「予告殺人」でバンチが唄ったものですが、このようなちょっととぼけた雰囲気がこの「蜘蛛の巣」にもあり、とても楽しいです。殺人が起こったのは大変なことだが、せっかくなのでちょっと楽しんじゃおうみたいなのりも見られます。それが完全に成功しているかどうかは、正直怪しいですが、とても楽しく読めました。

登場人物

クラリサがかわいい。特に最初のジェレミーとのやり取りは面白いですね。脇を固める面々もなかなかキャラが立っています。堅物のローランド卿が、クラリサに説き伏せられる場面なんかは、とても人間味があってよかったです。

ちなみに「アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ」ですから、もしかするとクリスティーはクラリサに自分を投影していたかもしれません。いろいろ想像をして楽しむというのは、幼いクリスティーがやっていた遊びそのものですものね。

ただクラリサのキャラが、だんだん薄れていくような感じがするんですよね。その代わりにピークが表に出てくるような感じかな。ただこれは実際に劇で見ると、また違った感想になるかもしれません。演じ方によって変わる気がします。

犯人とトリック

犯人の行動はこういうことでしょう。

ジェレミーはクラブハウスに食事に行くと言って、ローランド卿、ヒューゴーと一緒に出掛けました。しかしアプローチショットの練習をするとか言って二人と別れ、ジェレミーはまた家に戻ったのでしょう。そして家に忍び込もうとしたら、カステローが先に忍び込んでいて、机を探っている。それを見て切手を奪われたと勘違いし、ジェレミーはカステローを殺害した、という流れでしょうか。

とすると、結構ずさんな計画ですね。アリバイを作るためには早く仕事を済まさなくてはならないはずですが、実際は客間に人がいなくなるのを隠れて待っていた様子です。たまたまヘンリーは用事があったので出ていきましたが、そうでなかったらいつまで待つつもりだったのでしょうか。

クラリサが犯人に気づくきっかけは、ちょっと無理やりな感じがします。あまりに唐突でびっくりはしますが、あまり納得感はありませんでしたかね。

後で読み返すと、犯人自身が自分から容疑をそらそうと、かなり頑張っていました。その辺はあまり違和感がなく、うまいことやっています。さすがクリスティーだなぁと思いました。

よくわからないところ

「でも、誰だってびっくりはしますわ」

こういうくだりがあります。

「でも、誰だってびっくりはしますわ」

クラリサは自分の行ったことの意味に気づく。警部は、はじめは笑って受け流すが、ややあって彼女の言葉の意味に気づいて、ぎくりとする。クラリサは警部に微笑む。

クラリサは無意識のうちにピークを疑っていたということでしょうか。でもそれだからといって、警部が「ぎくり」とする意味が良くわからないです。

あるいは「誰だってびっくりする」というのは、クラリサ自身も死体を見てびっくりしたということでしょうか。死体を見てびっくりしたということは、自分が犯人ではないことを無意識に告白しているわけで、それなら警部がぎくりとした意味も分かります。ですがクラリサが警部に微笑んだのが良くわかりません。

まぁ話の展開から、クラリサがピークを疑っていたということでしょうけれど、それにしてもこんな意味深な言動とその反応の意図が良くわかりませんでした。

カステローの駐車位置

カステローは車を玄関まで乗りつけずに、厩のそばにとめました。警部は「いささかおかしな場所ですね」と言います。結局これは何だったのでしょうか。いったん帰ると見せかけて、また戻ってくるための準備なのでしょうか。

そもそもカステローの目的もよくわかりません。麻薬のリストを奪うためだったのでしょうか。ピパの「ザマアミロ!」を持って行ったということは、そういうことなんでしょう。そうならわざわざ顔を見せなくても、最初からこそっと忍び込む方がよかったのではないかと思うんですよね。まぁ、お話の都合上のことかもしれませんが…

ロード警部の態度

ロード警部は家にやってきて、ことあるごにジェレミーの方を向いて話をします。これって警部がジェレミーを最初から疑っていたということでしょうか。

しかしその後の展開からすると、どうもそうではなさそうな感じです。これって何なのでしょうか。伏線のようで結局そうではなかった…?

感想

面白くは読めました。ただ上記のようにいろいろと引っかかる場面が出てきて、それを確かめるために読み返したのですが、そうするとまた粗がちょっと目立つかなぁ、という感じです。犯人のトリックは甘いですし、犯人が判明する経緯や、犯人を罠にかける策略もなんというか、雑だなぁと思いました。

ただ死体が隠し扉から現れるくだりや、またそれが消えてしまうところなんかは、かなり興味を持って読み進められました。また殺人事件を楽しんじゃおう的なノリは良かったですし、またすべてが解決した後のクラリサとヘンリーの会話は、かなりほっこりとさせられました。とても良い読後感です。

すぐれた作品かというと確信を持ってそうだとは言えませんが、軽く楽しみたいときに開くには丁度良い作品のような感じがします。

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