1932年のミス・マープル物の短編集です。
マープルもの長編第1作「牧師館の殺人」は1930年の発表で、そちらの方が出版は早いのですが、「火曜クラブ」の短編が書き始められたのが1927年からなので、マープルものとしては、「火曜クラブ」の方が先になります。
最初に雑誌に6話発表して好評だったので、さらに6話追加してほしいと望まれたそうです。それにオリジナルの1篇が追加されて刊行されました。正直、最後の一話は蛇足だったような気がしないでもないです。でも「13」という数字に、何かしらの意味があるんでしょうね。
屋敷に集まった人々がそれぞれ自分が知っている事件や、不思議な体験談などを話し、他の人たちがその真相を推理するという形式です。問題編と解決編みたいな感じで、明確に分かれていますので、自分でも推理が楽しめます。
特に面白かったのは、「青いゼラニウム」「クリスマスの悲劇」「バンガロー事件」です。全体的にもかなり面白く読めました。マープルのキャラクターをつかむにも、長編より先にこちらを読んでおいた方がいいかもしれないと思いました。
火曜クラブ
あらすじ
ジョーンズ夫妻と家政婦のミス・クラークが夕食後苦しみだし、病院に運ばれる。そのうちジョーンズ氏とミス・クラークは回復するが、ジョーンズ夫人は亡くなってしまう。しかしひょんなことから、ジョーンズ氏に疑いがかかり…という話。
感想
少ないページ数と少ない登場人物の中で、どんでん返しと意外な犯人を創出しています。火曜クラブのメンバーたちが的を外した推理を披露し、そのあとでミス・マープルが真相を言い当てるという展開が楽しいです。
「hundreds and thousands」の意味を知ることができ、英語の勉強になりました。
アシタルテの祠
あらすじ
仮装パーティーをして楽しむ一同。そんな中、ダイアナが何かに取りつかれたようになり、「近寄ると、アシタルテの魔力で撃ち殺してしまうぞ」と言い出す。そこに近づいたリチャードはその場にばったり倒れこんでしまう。助けに行ったエリオットが確認すると、リチャードは死んでいた…という話。
感想
なにやら幻想的な話です。「死の猟犬」に出てきそうな感じです。トリックとしては良くあるやつですが、うまくその幻想的な雰囲気に惑わされた感じです。
金塊事件
あらすじ
難波船から金塊を引き上げようとしているニューマン。ある朝彼は行方不明になり、そして手足を縛られ、痛めつけられた状態で屋敷の片隅で見つかる。怪しい連中が洞窟に何かを隠しているのを、偶然見てしまったかららしい。酒場のおやじであるケルヴィンが疑われるが…という話。
感想
マープルが甥のレイモンドに、説教するところが面白いです。最後の一文なんて、いろいろな意味での親心が感じられて素晴らしいと思います。
舗道の血痕
あらすじ
画家のジョイスは遠くから絵をかいていて、舗道に血痕があるのを見たような気がする。しばらく後で、その場所に近づいて確認すると、そのような跡はなかった。自分の勘違いだったんだろうと、また日常に戻る。ところがその二日後、絵をかいていた時に見かけた、マージャリーという女性が溺死したというニュースが舞い込んできて…という話。
感想
これもまた幻想的というか、ホラー的な話です。ジョイスの怖がる様子が、面白いです。海水浴に行くとか、ボートに乗るとかいう展開は、「白昼の悪魔」を思わせる…と思ったら、文庫本の解説でもそのことに触れられていました。
動機対機会
あらすじ
サイモン・クロードの遺言書を預かった弁護士のペザリック氏。しかし、サイモンが亡くなってから、その遺言書の入った封筒を確認すると、何も書いていない真っ白な紙しか入っていなかった。確かに、サイモンが書いて封筒に入れたところは見ていた。では誰がすり替えたのだろうか…という話。
感想
これは犯人もトリックもわかりました。というか、「まさかこんなトリックじゃないよなぁ」と思っていたら、本当にそうだったという感じです。ちょっと稚拙ですね。降霊会については、他の作品でもよく出てきます。クリスティは興味があったんでしょうかね。
聖ペテロの指あと
あらすじ
デンマンが亡くなり、妻のメイベルが毒殺したのではないかといううわさが流れた。デンマンは亡くなる直前に、魚がどうのこうのといううわごとを言っていたというが…という話。
感想
英語の勉強になりました。言葉の聞き違いによって、話が変わって伝わってしまうというのは、母国語なら面白いんでしょうけれど、そうでないとあまり驚きにはならないですね。クリスティが毒に詳しいことはよくわかりました。
青いゼラニウム
あらすじ
心霊透視家ザリーダなる人物に「満月の晩は危ない…青いゼラニウムは死の象徴」と警告を与えられたプリチャード夫人。彼女はたしかに満月の晩に亡くなってしまった。そして壁紙の赤いゼラニウムは、青く変色していた…という話。
感想
花の色が変色する謎は、子供だましです。しかし、一応理屈は通っていますので、いいでしょう。犯人を特定する手際は見事です。言われてみれば、確かにその通りです。短いながらも、うまくまとまった推理小説です。
二人の老嬢
あらすじ
メアリの相手役であるエイミは海水浴で沖に出すぎて、戻れなくなってしまった。メアリは助けに向かったが、お互いもがいておぼれてしまった。ボートによって助けられたが、エイミのほうは亡くなってしまう。事故のように思えたが、メアリがエイミの頭を押さえつけていたという目撃談もあり…という話。
感想
これは、犯人もトリックもわかりました。よくあるパターンというか、クリスティらしいというか、あまりにも予想通りだったので、むしろすがすがしいです。ちょっと物悲しい結末もクリスティらしいです。
四人の容疑者
あらすじ
秘密結社から命を狙われるローゼン博士。田舎に引きこもり身を隠していたが、あるとき階段から転げ落ちて死んでしまう。その時家にいたのは、姪のグレタ、秘書、ドイツ人の家政婦、園丁の4人。おそらくその誰かが、ローゼン博士を突き落としたのだろうが…という話。
感想
手紙の暗号を解読する問題でした。これは英語の原文で見たかったです。翻訳だと台無しですね。とはいえ、この短い話の中で、十分に犯人の恐ろしさを感じられました。
クリスマスの悲劇
あらすじ
サンダース夫妻と出会ったマープルは、夫のサンダース氏が妻のグラディスを殺そうとしていると直感した。その後の出来事からそれが確信に変わったマープルは、サンダース氏のたくらみを阻止しようとするが…という話。
感想
犯人のたくらみを阻止しようとするサスペンス的な話から始まって、犯人は誰なのかという本格推理の展開になります。一粒で二つの味が楽しめる贅沢な内容です。トリックや意外な犯人もしっかりしていて、短編にしてかなりの完成度だと思います。
毒草
あらすじ
サー・アンブローズ家で中毒事件が起こり、彼が後見をしていたシルヴィアが亡くなった。彼女の婚約者ジェリー・ロリマー、友人のモード・ワイ、お相手役のカーペンター夫人、そしてアンブローズの友人カール氏が当時家にいた。狙われたのは本当にシルヴィアか? それとも…という話。
感想
バンドリー夫人の話がへたすぎる。あとでちょこちょこと付け足す感じですが、誰の話をしているのかよくわからないです。オチは意外でした。なるほどだからこそ、こういう設定だったんだな、という感じです。
バンガロー事件
あらすじ
レスリー・フォークナーは自分が作った戯曲を見てもらいたく、女優のヘリアのもとを訪れる。そこでカクテルを飲んだあと記憶を失ってしまい、道端で目を覚ましてフラフラしているところを警察に逮捕される。どうやらヘリアの家で泥棒があったようだ。しかもフォークナーが会っていた人物は、実はヘリアではなく違う人物だったようで…という話。
感想
ヘリアの話ぶりが面白い。
なみいる人々はみな一様に、ジェーンの “友だち” というのは、ジェーン自身のことにちがいないと確信していたのだった。
ヘリアが口を滑らすのを期待するヘンリーの様子や、実際に滑らせた時のリアクションも笑えます。
話のオチはなかなか凝っています。そういうオチか、と思わせておいて、さらにひっくり返してきます。それも含めて最後はいろんな意味でちょっとゾッとします。
溺死
あらすじ
身重になったローズ・エモットが川でおぼれて亡くなった。その相手と思われる青年サンフォードにはロンドンに婚約者がおり、彼はローズを捨てるつもりだった。事故か自殺かと思われていたが、どうやらサンフォードが怪しいとなり…という話。
感想
犯人が明かされる少し手前で、真相がわかりました。A→Bかと思っていたら、実はB→Aだったというのは、盲点でした。でも動機については、この短編集のある作品に同じやつがありますよね。そこから犯人がわかってしまいました。
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