概要とあらすじ
1944年のノンシリーズですが、「チムニーズ館の秘密」「七つの時計」「ひらいたトランプ」「殺人は容易だ」に出てきた、バトル警視がメインの探偵として登場します。
ポアロ自身の登場はありませんが、その名前は数か所で言及されます。
万能スポーツマンのネヴィル・ストレンジは、美しい妻のケイとともに、毎年トレシリアン夫人のもとに訪れるのだが、今年は前妻のオードリイがいる九月に行くと言い出す。嫌がるケイだったが、ネヴィルの「みんな仲良くできたら」の言葉にしぶしぶ従うのだが…という話。
みどころ
三つの三角関係があります。それらが有機的に絡まって、なかなか面白いです。とはいえ、やはり一番はオードリイとケイ、ネヴィルの三角関係です。
新聞を持ってきたネヴィルが、オードリイとケイのどちらにそれを渡すのかという場面は、かなりの緊張感がありました。他人のもめごとは本当に面白い。
第一章で、それぞれの登場人物の紹介的な短いエピソードがあり、第二章で、それらの登場人物たちが一堂に会するという、グランド・ホテル形式の作品です。この第二章までが抜群に面白いです。
登場人物について
登場人物の中では、やはりケイが一番良かったです。最初のネヴィルとのやりとりは、とてもかわいらしくて好感が持てます。そこから、ガルス・ポイントに到着してからの、かみ合わなさはかわいそうに思えます。そういえば、トレシリアン夫人も同じようなことを言っていましたね。
その他の登場人物もとても魅力的でした。ケイと対照的に描かれるオードリイですが、ある意味類型的な人物です。ですが、ネヴィルの口から語られる様子と、ケイの口から語られる様子が複合的に重なり合って、なんとも不思議な人物に仕上がっているように思いました。
犯人とトリック
犯人の造形はなかなか面白いと思いました。ただ、犯行がばれてからの言動がちょっとなぁ…と感じました。犯人の幼稚さを表したかったのでしょうけれど、もう少し何かあったのではないでしょうか。どうせなら、あせって自らぼろを出していくみたいな方がよかったかな。
トリックは面白かったです。この手のタイプはよくあるようで、あまり見かけない気がします。ただ、この「ゼロ時間」という仕掛けのため、どんでん返しの回数が少なくなっているのは、もったいないと思いました。
やりようによっては、もっといろんな人を疑わせることができたはずです。魅力的な登場人物が多かったので、余計にそう思います。
不満点
クリスティーおなじみのカップリングが、今回はやや納得がいかないですね。
オードリイとトーマス、ケイとテッド・ラティマー、そしてメリイとアンドリュー・マクハーターにするべきじゃないのかなぁ。そう思っている人、多いと思うんですがね。
そう思うと、ケイとテッド・ラティマーの後日談も欲しかったですね。
あと捜査パートで、若干テンションが下がってしまうように感じました。やはりバトル警視だとキャラが弱いですかね。むしろポアロでもよかったのではないでしょうか。ノンシリーズにする意味がよくわからなかったです。
まとめ
とはいえ、第一章のバトル警視の内容が、犯人を見破る伏線になっていたり、第一章で出てきた人物が、最後に現れたりと、大きな伏線がしっかり張られているところは、「ここでこうくるか!」となりました。
とてもうまくまとまった作品だと思います。第二章まで一気読みで、捜査パートでやや中だるみはありますが、最後の解決もきれいにまとまっています。楽しく読むことができました。
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