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カーテン-アガサ・クリスティー 感想

カーテン アガサ・クリスティー

概要

1975発表のポアロ長編33作中33作目。ポアロシリーズの最後の作品です。しかし「カーテン」が実際に書かれたのは、第二次世界大戦中の1943年だったそうです。ポアロものとして書かれた作品では、「象は忘れない」の方が最後に執筆された作品になります。

あらすじ

スタイルズ荘を訪れたポアロとヘイスティングズ。そこに集う人物たちの中に、過去5件の殺人事件に関係するXがいるという。Xはだれで、そして誰を狙っているのか? そしてポアロ達はXのたくらみを未然に防ぐことができるのか?

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みどころ

暗く重いトーンです。前半は「無実はさいなむ」に似た雰囲気で進みます。ところどころにユーモアもあるのですが、それがより重苦しさを助長します。お通夜で故人の思い出話をしていて、楽しいエピソードに笑うのですが、その反動でより一層哀しさが押し寄せる感覚です。

「無実はさいなむ」は事件が解決して、その重苦しさが晴れたような感覚でしたが、「カーテン」は最後の最後まで重苦しいままです。希望の光は見えますが、それすら哀しい光に見えます。

ここまで暗く重く哀しい雰囲気は、他の長編では感じたことはありません。ある意味イヤミスの感覚に近いものがありますが、イヤミスというような言葉で括れないような感じもあります。クリスティの作品の中でも異質の作品と言えるでしょう。

登場人物

登場人物みんなしっかり描かれています。スタイルズ荘の泊り客が、最初はゴチャついています。しかし、ヘイスティングズがそれぞれとしっかり絡んでいきますので、ちゃんと区別がつくようになります。

ジョン・フランクリンの研究者にありがちな、周りが見えない感じが面白いですね。チョコレートの箱に謝ったのは笑いました。

ユーモアという点では、ヘイスティングズとジュディスのやり取りが面白いですね。ラトレル夫妻のやり取りも面白いのですが、こちらは作品の重さによってゆがめられていく感じがします。

カーテン人物相関図
カーテン人物相関図

犯人とトリック

なかなかの犯人像。ポアロ最後の敵としては、かなりの人物像な気がします。Xが犯行を行う動機は、何かの短編で見たものと同じような感じですが、こちらの方がより異常性を感じて怖いです。

会話がテクニカルです。かなり記述に気を使っています。あとで読み直してその真意がわかると、その場面の受け取り方も変わるのがすごいです。

Xの仕掛けるトリックは「カリブ海の秘密」にも通じるものがありますが、「カーテン」の方がしっかり筆を尽くしており、その作為が結果として表れている感があります。

ポアロが犯人に仕掛けるトリックは、子供だましですが、これは正直どうでもいい気がします。

先に読んでおくべき作品

「スタイルズ荘の怪事件」「ゴルフ場殺人事件」「ABC殺人事件」「ナイルに死す」は先に読んでおくべきです。それぞれの作品について触れられている場面があります。

特に「スタイルズ荘の怪事件」は、「カーテン」を読む前に、復習しておく方がいいかもしれません。「スタイルズ荘の怪事件」の登場人物のその後についても語られていますし、スタイルズ荘自体が「カーテン」の舞台でもあるからです。

そしてできるだけ多くのポアロ作品を読んだうえで、この「カーテン」に取り掛かるべきです。特に短編では、ポアロとヘイスティングズの楽しいやり取りが多いです。なので短編もたくさん読んでおいて欲しいです。彼らへの思い入れが強ければ強いほど、この作品に対する印象が強まります。

エヴリン・カーライルの事件

ヘイスティングズがこのように発言します。

どんなに持ってまわったとしろ、金銭的な動機──たとえば、あなたがエヴリン・カーライルの事件で突き止めたような動機がないことは確かなんですか?

エヴリン・カーライルという登場人物は、クリスティの作品の中で見つけることができませんでした。どこかにその作品があるのか、あるいはいつかその作品を書こうと考えていたのでしょうか。

感想

圧倒的な喪失感。ヘイスティングズの気持ちと同調するような感じです。この作品は賛否両論あると思います。私の中でもかなり揺れ動いています。

ポアロシリーズの最後としては、こうするしかなかったような気もします。一方「象は忘れない」では次世代に希望を託す終わり方でした。それで終わりにすればよかったのではないかとも思います。

ポアロシリーズには「カーテン」と「象は忘れない」の、二つの世界線があったという解釈をして、気持ちを納得させるのが良いような気がします。

最後はヘイスティングズに、全ての真相を見抜いて欲しかったという思いもありますし、見抜けないからこそ愛すべきヘイスティングズのような気もします。

なんかいろいろ思うところはありますが、クリスティがそういう作品を書いて、発表したんだからしょうがないというか、それを尊重したいという感じです。かなり没入感がありましたし、最後の展開は感情を揺さぶられました。それだけでもこの作品はすぐれた作品なのでしょう。

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