概要とあらすじ
1938年のポアロ長編33作中17作目。
クリスマスイブに富豪シメオン・リーが、首を切られて、屋敷の自室に血まみれで発見される。しかもそこは密室状態。当時その館にはクリスマスということで、彼の一族が集まっていて…という話。
登場人物について
登場人物はそれぞれ魅力的です。被害者には息子が4人います。それぞれ性格が全然違いますし、父に対する思いも違います。そしてその妻たちにも、考えがあります。
さらに被害者には死んでしまった娘がいて、その子供や、また被害者の友人の息子だという人物も現れます。それぞれの思惑が絡み合って、なかなか面白いです。
登場人物の数はそれなりに多いですが、一人一人尋問したり、会話したりする場面がありますので、特徴もつかみやすく、整理はしやすいです。
殺されたシメオン・リーがなかなかの人物です。親族を集めて一人一人をこき下ろす場面なんかは、すごかったです。ただ、遺言書の内容だったり、寄付金などの気前の良さだったりから考えると、実はいい奴だったのでは? という思いもあります。
そうするとあのこき下ろしも、家族のきずなを取り戻すための作戦だったのでは? という解釈もできそうです。雨降って地固まる的な。まぁ、そうじゃないんでしょうけれど。
トリックについて
密室の謎は分かりやすいかな。あの状況なら、普通はああなるでしょうね。似たようなトリックはクリスティのもっと有名な作品でもありました。
被害者が犯人と格闘していたと思われる大音は、犯人の作為だったというのは、「アクロイド殺し」における、蓄音機のトリックと同じようなものです。
ただそこに思いが至ったのなら、犯人は分かっていないといけなかったです。
血の問題はどうなんでしょうか。あれはばれますよね。というか、状況が明らかに他殺ですから、そういう検査はしないんでしょうか。いや、でもあの作為を施すには、そうするしかなかったのかとも思いますが、少しもやっとします。
犯人について
正直、犯人は予想外中の予想外です。かなりびっくりしました。確かにちょこちょこと怪しい描写はあって、気にかかってはいました。ですが、スルーしてしまっていましたね。
とはいえ、うーん、これはアンフェアよりですね。まぁ、クリスティとしては、とりあえずそのパターンの作品も書いておかないといけない、という感じでしょうか。負け惜しみみたいになってしまいますが。
感想
「館」「密室」といった、いかにも「ザ・ミステリー」といったお膳立てで始まります。なかなか面白く読むことができました。
大ネタ一発的な内容なので、再読に耐える作品かというと、そうではないでしょう。ですがクリスティを読むのであれば、一度は目を通しておくべき作品とは言えます。
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