概要とあらすじ
1935年のポアロ長編33作中10作目。
パリ発クロイドン行きの飛行機の中で、金貸し業を営むマダム・ジゼルが殺された。現場には毒針が落ちており、吹矢筒も機内から見つかった。同乗者たちはみな、マダム・ジゼルとは面識がないと言うが…という話。
読みどころ
コミカルな内容で、面白く読むことができました。
ポアロが一生懸命話しているとき、その話を聞きながら心で別のことを考えている、フルニエとジェーンのようすだったり、ポアロが陪審員によって殺人罪とされたりする場面は、特に笑えます。ノーマン・ゲイルの変装や、ジェーンが給料の交渉する場面なんかも、なかなかです。
登場人物のキャラクターも、みんな立っています。特にジェーンのキャラがいいですね。ポアロの秘書として活躍(?)する場面は、よかったです。
ノーマン・ゲイルのルーレットでの態度は格好いいです。そのあとのちょっとどんくさい感じとは、キャラが統一されていない感じがしますが、それはそれでなんか好感が持てるようにも思えます。
ホーバリー夫人は最初面白そうでしたが、なんか尻つぼみでした。対してクランシイは後半どんどんキャラが立ってきて、よかったです。彼は助演男優賞でしょう。
トリックについて
搭乗者の持ち物に関しては、すぐに気づくことができました。「あ、これのことだな」という感じです。すると犯人はこの人なのか? となりますが、その後の展開で、またよくわからなくなりました。
トリックは、ちょっとアンフェアかな。
歯医者の服とスチュワードの服が似ているというのは、書かれていません。せめてスチュワードの服の色か、その特徴的な何かが描写されていたらなぁ、とは思いました。
犯人のたくらみである蜂と吹矢が、あまり有効に働いていないように感じました。蜂は早々に容疑から外されますし、吹矢もそんなことをしたら、絶対に目撃者がいるはずと、実現性に疑問が持たれます。そしてそれが解決しないまま、最後まで進みます。
全員が蜂に気づいていて、それに注目が集まっていたとか、下に有名な遺跡か何かがあって、窓から下を見ていたみたいな、そんなことがあった方がよかったのでは、と思いました。
過去作品とのからみ
過去の作品について、触れられている場面がちらほらあります。
フランスの刑事ジローについての話がちょこちょこ出てきますが、これは「ゴルフ場殺人事件」にでてきた人物です。またポアロが散髪屋と間違えられるというのは、「アクロイド殺し」での話です。そして「オリエント急行の殺人」について触れられている場面もありました。
そういった小ネタを楽しむためには、それらの作品を先に読むべきでしょう。とはいえ、「アクロイド殺し」や「オリエント急行の殺人」より、本作を先に読む人はいないでしょうから、あるとすれば、「ゴルフ場殺人事件」ですね。
「ゴルフ場殺人事件」自体、結構いい出来ですから、それを先に読んでから、この「雲をつかむ死」をよむと、よりジロー刑事のくだりは楽しめるのではないかと思います。
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