概要
1935年のポアロ長編33作中10作目。
アガサ・クリスティーは1930年代に飛行機での旅行を経験しています。クリスティーは、飛行機での旅行が一般的になる前の時代に生きていたため、飛行機での移動は彼女にとって特別な体験だったと思われます。飛行機内での殺人事件を描いたこの作品は、彼女の飛行機旅行の経験を反映していると言われています。
個人的評価
あらすじ
パリ発クロイドン行きの飛行機の中で、金貸し業を営むマダム・ジゼルが殺された。現場には毒針が落ちており、吹矢筒も機内から見つかった。同乗者たちはみな、マダム・ジゼルとは面識がないと言うが…
みどころ
コミカルな内容で、楽しく読むことができます。
ポアロが一生懸命話しているとき、その話を聞きながら心で別のことを考えている、フルニエとジェーンのようすだったり、ポアロが陪審員によって殺人罪とされたりする場面は、特に笑えます。ノーマン・ゲイルの変装や、ジェーンが給料の交渉する場面なんかも、とても面白いです。
登場人物
- ジェーン・クレイ(美容院の助手)
- ノーマン・ゲイル(歯科医)
- マダム・ジゼル(金貸し業)
- アン・モリソー(ジゼルの娘)
- アレクサンドル・チボウ(ジゼルの顧問弁護士)
- シシリ・ホーバリ(伯爵夫人)
- ヴェネチア・アン・カー(貴族の令嬢)
- ドクター・ブライアント(耳鼻咽喉科の医者)
- アルマン・デュポン(考古学者)
- ジャン・デュポン(アルマンの息子)
- ダニエル・マイクル・クランシイ(探偵作家)
- ジェイムズ・ライダー(セメント会社の支配人)
- ヘンリー・ミチェル(シニア・スチュワード)
- アルバート・ディヴィス(セカンド・スチュワード)
登場人物のキャラクターが、みんな立っています。特にジェーンのキャラがいいですね。ポアロの秘書として活躍(?)する場面は、よかったです。
ノーマン・ゲイルのルーレットでの態度は格好いいです。そのあとのちょっとどんくさい感じとは、キャラが統一されていない感じがしますが、それはそれでなんか好感が持てるようにも思えます。
ホーバリー夫人は最初面白そうでしたが、なんか尻つぼみでした。対してクランシイは後半どんどんキャラが立ってきて、よかったです。彼は助演男優賞でしょう。
トリックについて
搭乗者の持ち物に関しては、すぐに気づくことができました。「あ、これのことだな」という感じです。すると犯人はこの人なのか? となりますが、その後の展開で、またよくわからなくなりました。
トリックは、ちょっとアンフェアかな。
歯医者の服とスチュワードの服が似ているというのは、書かれていません。確かに「白衣」のスチュワードと、持ち物に「白麻の上着」と描写がありますが、それをもって伏線は埋め込みましたよ、というのはどうかなぁ。もう少し特徴的な何かが描写されていたらなぁ、とは思いました。(見逃していたかな?)
犯人のたくらみである蜂と吹矢が、あまり有効に働いていないように感じました。蜂は早々に容疑から外されますし、吹矢もそんなことをしたら、絶対に目撃者がいるはずと、実現性に疑問が持たれます。そしてそれが解決しないまま、最後まで進みます。
全員が蜂に気づいていて、それに注目が集まっていたとか、下に有名な遺跡か何かがあって、窓から下を見ていたみたいな、そんなことがあった方がよかったのでは、と思いました。
過去作品とのからみ
過去の作品について、触れられている場面がちらほらあります。
フランスの刑事ジローについての話がちょこちょこ出てきますが、これは「ゴルフ場殺人事件」にでてきた人物です。またポアロが散髪屋と間違えられるというのは、「アクロイド殺し」での話です。そして「オリエント急行の殺人」について触れられている場面もありました。
そういった小ネタを楽しむためには、それらの作品を先に読むべきでしょう。とはいえ、「アクロイド殺し」や「オリエント急行の殺人」より、本作を先に読む人はいないでしょうから、あるとすれば、「ゴルフ場殺人事件」ですね。
「ゴルフ場殺人事件」自体、結構いい出来ですから、それを先に読んでから、この「雲をつかむ死」をよむと、よりジロー刑事のくだりは楽しめるのではないかと思います。
感想
コミカルな内容で、面白く読むことができました。犯人をはめる方法も鮮やかで、ポアロの格好良さが際立ちます。終わり方もさわやかで、とても読後感が良かったです。あまり有名な作品ではなかったので、あまり期待していなかったのですが、思わぬ掘り出し物という感じでした。
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