概要
1933年のポアロ長編33作中7作目。
アメリカの女優、ルース・ドレイパーの一人芝居を見て、アイデアが浮かんだそうです。アガサ・クリスティーはロードス島で数週間一人で滞在し、「エッジウェア卿の死」の執筆を始めます。その後、夫のマックスが発掘作業しているニネヴェに向かい、そこの宿舎で今作品を完成させました。
あらすじ
「夫のエッジウェア卿と別れたいが、夫が承諾してくれない」と元女優のジェーン・ウィルキンスンはポアロに相談する。ポアロはエッジウェア卿と会談するが、どうも話がかみ合わず、そのまま別れることになるのだが、その数日後、エッジウェア卿は殺されてしまう…
5項目評価
ストーリー(8点)
上流階級の人物が入り乱れ、「離婚問題」「女優の形態模写」「晩餐会のアリバイ」「パリでの謎の出来事」「次々と起きる第二・第三の殺人」と、クリスティーらしい「殺人フルコース」が展開するとの評価が複数確認できます。 テンポが良く、読者を翻弄し続ける構成はシリーズ中でも強い。
意外性(9点)
読者の多くが「まんまと騙された」「犯人は最初から怪しいのに見抜けない」 と語っており、ミスディレクションの巧妙さはシリーズ屈指。 犯人の手記が最後に提示される構造も強烈な印象を残す。
キャラクター(9点)
特に評価が高いのは、
- ジェーン・ウィルキンスン:強烈で魅力的、読者を振り回す存在として絶賛。
- カーロッタ・アダムズ:形態模写の設定が物語の核となり、印象深い。
- ポアロ&ヘイスティングズ:掛け合いがこなれており、シリーズの安定感があるとの声。
犯人の造形は「空恐ろしい」「忘れられない」と高く評価されている。
ユーモア(7点)
レビューでは、「ポアロとヘイスティングズのやり取りの軽妙さ」や「ジェーンのとんでもないトラブルメーカーぶり」がユーモアとして機能しているとの声がある。 ただし作品全体は緊張感が強く、ユーモアは控えめ。
トリック(9点)
本作の核は、 「入れ替わり」×「アリバイ」×「ミスディレクション」。 読者レビューでは、「アリバイ崩しが巧妙」「ミスディレクションの技が冴えまくっている」 と高く評価されている。
一方で、 「少しのタイミングのズレで成立しなくなる非現実性」 という指摘もあるが、クリスティーの技巧としては非常に高水準。
登場人物
- ジェーン・ウィルキンスン(もと女優)
- エッジウェア卿(ジェーンの夫)
- カーロッタ・アダムズ(女優)
- ルシー・アダムズ(カーロッタの妹)
- ブライアン・マーチン(映画俳優)
- ロナルド・マーシュ(エッジウェア卿の甥)
- ジェラルディン・マーシュ(エッジウェア卿の先妻の娘)
- キャロル(エッジウェア卿の秘書)
- ジェニー・ドライヴァー(カーロッタの友人)
- ドナルド・ロス(パーティーにいた男)
- マートン侯爵(若い貴族)
- マートン侯爵夫人(侯爵の母)
- エリス(ジェーンの召使)
何をおいても「ジェーン・ウィルキンスン」の存在感がすごい。彼女が表に出てくる場面はそれほど多くはないのですが、本を閉じて頭に浮かぶのは彼女のことばかりです。それくらい印象に残るキャラクターです。
あと思うのは、登場人物の名前がややこしい。ロナルド・マーシュとドナルド・ロスの二人が特にひどい。最初同一人物と思っていました。ほかにもブライアン・マーチンとロナルド・マーシュとマートン侯爵の「マ」つながりも紛らわしい。
ブライアン・マーチンは俳優で、ロナルド・マーシュもかつて演劇に関係していたとか・・・まぁこれは設定として仕方がない部分でしょうけれど。
このややこしさは狙ってやっているのかともおもいました。女優の入れ替わりだけでなく、男の方の入れ替わりもあったのだ、みたいな。でもそういえば終盤にそういう話はありましたね。とするとその狙いも少しはあったのかも。でもそれは、あまり本筋に関係ない部分でしたし。どうなんでしょうかね。
トリックについて
途中、謎や推理が渋滞して、読むのがつらいところがありましたが、なんだかんだときれいに解決したかな、という感じ。ただトリックに関しては少し疑問が残ります。あれは現実だとすぐにばれるでしょう。
江戸川乱歩が、「推理小説が文学たり得るか」という話の中でこのようなことを言っていました。
推理小説は犯人の心の中を書くことができない。だからこそ、その態度や表に現れる言葉などから、より一層おそろしい犯人を描くことができる
この「エッジウェア卿の死」はまさにそれを行った小説だと思います。ただ、必ずしも完全に成功したとは言えません。犯人の失敗が目立つし、やはりトリックが甘いと思われるからです。こういうのは犯人側のミスがない方がいいですね。その方が犯人の恐ろしさが際立つと思います。
手紙のトリックがあまりにお粗末。ジェーンは自画自賛していましたし、ポアロも引っかかっていましたが、あれは分かるでしょう。だって大文字と小文字のこともありますしね。
あと妹あての手紙も本物通りに載せないとだめでしょう。つまり三枚に分けて載せるべき。でないとフェアーじゃないと思うのですが。いや、クリスティーのミステリーにフェアーを求めてはいけないのかな。でもこれに関してはそうすべきだと思うのですがね。
感想
色々文句を言いましたが、ジェーン・ウィルキンスンのキャラは立っていましたね。黒のドレス(喪服?)を選んでいるときの様子なんかは、ポアロではないですが、「素晴らしい」という感じです。彼女のキャラだけでお腹いっぱいの大満足でした。
この本は少しややこしいので、二回読んでワンセットですね。一回読んで終わりではもったいない。そうするといろいろ感心する部分が見えてきます。二回目確認しながら読んでみると、ダメ警部のジャップが案外本質を見抜いていたりするのも面白いです。




コメント