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葬儀を終えて-アガサ・クリスティー 感想

4.5
葬儀を終えて アガサ・クリスティー

概要とあらすじ

1953年のポアロ長編33作中25作目。

リチャード・アバネシーが亡くなり、その葬儀の後、遺言の内容が公開された。その席でリチャードの妹のコーラが「リチャードは殺されたんでしょう?」と無邪気に言い放つ。果たしてリチャードは本当に殺されたのか? 家族の中に不穏な空気が流れる中、そのコーラが殺されてしまう…という話。

登場人物について

登場人物全ていいです。特に女性陣が素晴らしいです。ヘレン、モード、スーザン、ロザムンドそれぞれ特徴があります。この中では特にロザムンドがお気に入りです。バカだけど鋭い系の女性って面白いですよね。

そして何よりコーラです。コーラの表現がめちゃめちゃ面白いです。口にしてはいけないことを、ついつい言ってしまう。こういう人いるよなぁ、という感じです。

そのコーラが帰りの汽車の中で、「人間ってずいぶんおすまし屋なのね…」とつぶやく場面は、それまでのコミカルな描写との対比で、背筋が凍ります。

男性陣もなかなか面白いです。ティモシーとジョージの言い争いは、なかなかの名場面です。ランズコムの家族たちを見る、温かくも寂しげな目もいいですし、エントウイッスルの法律家らしい辛辣な語りもなかなかです。

「葬儀を終えて」は登場人物同士のやり取りで、かなり読ませる作品だと思います。

みどころ

コミカルとシリアスの配分が、抜群だと思いました。

「スーザン、なにを見つけ出したんだい?」
スーザンは思わずキャーッと叫んで跳びのいた。

そして、恥ずかしがって顔を赤くするスーザンの様子は、なかなか面白いです。ですがそのあと、ジョージが手紙を見せるようせがみ、どうしようか一瞬迷いつつも、手紙を渡すシーンはちょっとしたホラーです。

他にも、顔の右左が違っているという話で、わいわい楽しい雰囲気になって、その流れでポアロがお別れの挨拶をしているところ、ロザムンドの一言でポアロの正体がばれる瞬間は、緩急がかなりきいていて、ドキッとさせられました。

誰が犯人かわからないという疑心暗鬼と、登場人物たちのユニークさがうまく融合して、読んでいてとても楽しいです。

リチャードの言葉

「人をわなにかけるようなことはよいことじゃないが、他にどうしようもないから」

このリチャードの言葉は何を意味していたのでしょうか。全員と面談して、跡継ぎを決めようとしたことなんでしょうか。なんかいまいちしっくりきません。

犯人について

犯人は意外な人物でした。ですが怪しい候補には入っていましたね。

モートン警視と同じく、毒入りケーキのところで疑惑を深めました。ですがここは、「ウェディングケーキを枕の下に入れて寝ると、未来の夫の夢を見る」という話でうまくカモフラージュされていたようにも思いました。

動機に関しては、作中で何度となく描かれていましたので、それなりに納得です。ですが、

絵に関しては少々アンフェアな感じがあります。最初評論家のガスリーに、「コーラの蒐集品をこうして眺めてみますと、あのバルトロツィはほんのまぐれ当たりだったとしかいえませんね」と言わせています。

ヴェルメールの絵に簡単に上塗りして、拭き取ると本当の絵が下から現れるなんてできるんでしょうかね。

ここは正直、後出しじゃんけん的な感じを受けました。

最後に犯人を形容する表現がありました。

「あたし、あんな淑女のような殺人者って想像もしたことないわ。ぞっとするわねえ」と、スーザンは言いましたが、あまりギルクリストに、淑女のような感じはしなかったですね。

ここは、あまりピンとこなかったです。

エッジウェア卿の死

「エッジウェア卿の死」に言及されている部分があります。「エッジウェア卿の死」は1933年の作品なので、なんと20年前の作品に触れていることになります。

私にもそんな女の経験があります。エッジウェア卿の殺人事件、忘れもしないです。あの時、私、危く敗けるところでした。このエルキュール・ポアロがですよ。誰に敗ける? ロザムンドのようなポカンとした頭から出た非常に単純なずるさにね。

これは「エッジウェア卿の死」の犯人が女であることのネタバレになっていますよね。「ロザムンドのようなポカンとした頭」とくれば、犯人の予想もついてしまいそうです。

ということで、「エッジウェア卿の死」のネタバレがありますので、そちらを先に読んでおくぺでしょう。

感想

最初から最後まで面白く読むことができました。真相がわかると、物語の様相が一変するところは素晴らしいと思いました。

最後のポアロと登場人物たちが語り合う場面も、とてよかったです。みんなそれなりに幸せのようで、なによりです。仲良くやってもらいたいものですね。

犯人の動機がアンフェア気味に隠されていた点と、

犯人を「淑女」と言っていた点があまり納得がいきませんでした。淑女と言いたいなら、犯人の独白部分は、もうすこしそれなりにできたのではないかと思いました。あれで淑女はないでしょう。

それを除くと、全体的にとても完成度が高い作品だと思います。犯人の独白部分を何とかして、

本当に淑女のような犯人にできたら、

完璧だったように思いました。

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