概要
1920年のアガサ・クリスティの処女作。ポアロ長編33作中1作目です。
1916年にアガサ・クリスティはこの作品を完成させましたが、出版社からは何度も断られました。その存在をクリスティーが忘れかけていた1920年に、ボドリー・ヘッド社から連絡があり、若干の修正を経て出版されました。
あらすじ
スタイルズ荘の女主人エミリイが発作を起こして死んでしまう。どうやら毒殺されたらしい。再婚相手の若い男である、夫のアルフレッドに不利な証拠が次々と出てくるが、果たして本当に彼がそんなことをしたのだろうか? ポアロが調査に乗り出す…
5項目評価
ストーリー(9点)
第一次世界大戦下のイギリスの屋敷で起きる毒殺事件。 “屋敷にいる全員が容疑者”という後のクリスティー作品の原型がすでに完成しており、 語り手ヘイスティングスの視点で進む構造が読みやすい。 デビュー作とは思えないほど完成度が高いと多くの読者が評価している。
意外性(8点)
「犯人らしくない人物が犯人」という構造は、後のクリスティー作品の定番となるが、 本作ではその“原型”がすでに巧妙に仕込まれている。 容疑者が次々と入れ替わる展開は、現代の読者でも十分に驚きを感じられる。
キャラクター(9点)
ポアロは初登場ながら、「几帳面」「外国人ゆえの独特の視点」「お茶目さ」がすでに確立されている。 ヘイスティングスとの掛け合いはホームズ&ワトソン型の“名コンビ”の始まりであり、 読者からも強く支持されている。
ユーモア(8点)
ヘイスティングスの勘違い、ポアロの芝居がかった言動など、 “軽いユーモア”が随所にあり、重い毒殺事件を扱いながらも読後感は明るい。 レビューでも「ポアロが可愛い」「ヘイスティングスが面白い」との声が多い。
トリック(8点)
クリスティーの薬学知識が活かされた毒物ミステリーであり、 ストリキニーネの作用を利用した“遅効性の仕組み”が鍵になる。 アリバイの再構成と心理的盲点を突く構造は、デビュー作とは思えない精度。
みどころ
あまり期待せずに読み始めましたが、面白かったです。推理小説のいいところ詰め合わせ欲張りセットという感じ。密室、暗号(?)、入れ替わり、アリバイなどなど、様々な趣向が盛りだくさんです。そしてそれらが無理ない形で展開されています。
また、ポアロのわけのわからない質問や、わけのわからない行動に振り回されるヘイスティングズが面白いです。
昔はすごかったけれど、もう耄碌してしまったのではないか…と思っていたら、それらが事件の真相に絡んでくる。やはりポアロはすごい…と思っていたら、またおかしなことを言いだすので…とヘイスティングズのポアロに対する評価がくるくる入れ替わります。
シャーロックホームズとワトソンといった、名探偵とその助手という関係のまさに典型という感じ。お手本のような本格推理小説の味わいです。
登場人物について
- エミリイ・イングルソープ(スタイルズ荘の女主人)
- アルフレッド・イングルソープ(エミリイの夫)
- ジョン・カヴェンディッシュ(エミリイの義理の息子)
- メリイ・カヴェンディッシュ(ジョンの妻)
- ローレンス・カヴェンディッシュ(ジョンの弟)
- イヴリン・ハワード(エミリイの相談相手・女中頭)
- シンシア・マードック(エミリイの旧友の娘・薬剤師)
- ドーカス(召使)
- マニング(庭師)
- ウィルキンズ(主治医)
- バウエルスタイン博士(毒物学者)
- アルバート・メイス(薬屋の店員)
- エルキュール・ポアロ(私立探偵)
- ヘイスティングズ(ポアロの友人)
- ジェームズ・ジャップ(ロンドン警視庁の警部)
- サマーヘイ(ロンドン警視庁の警部)
登場人物ではヘイスティングズが面白いです。素直でお人よしだが、ちょっと抜けているという感じがとてもいいです。
その他の登場人物も、ヘイスティングズの目を通して語られるので、ちょっとした偏見や先入観も込みで面白く描かれます。エミリとシンシアの二人の女性もいいですね。

犯人とトリック
犯人は意外な人物でした。トリックやそれが崩れていく様もなかなか楽しめます。細かい謎が途中途中で明かされますので、あまり中だるみすることなく読み進めることができました。
ヘイスティングズのなんでもない一言が、事件を解くカギになっている展開が素晴らしいですね。あとは犯人が暴かれる瞬間の描写は、定番ですが好きです。
感想
「スタイルズ荘の怪事件」では、登場人物の描写はあっさりしていて、その分ポアロとヘイスティングズのやり取りに比重が置かれています。
登場人物に深みがあって、その登場人物たちが織り成すドラマが事件に絡んで、強い感動をもたらす、といった他の作品にあるような展開はありません。
登場人物の描写があっさりしているので、犯人に対する「怖さ」や「哀れみ」など、他のクリスティー作品では感じる部分が薄いのですが、その分ポアロとヘイスティングズのキャラが立っている作品です。
これはヘイスティングズ視点で書かれていることも大きいと思います。そしてむしろデビュー作としてはこの形式で良かったとも思います。
クリスティの作品としては「アクロイド殺し」の方が有名で、先にそちらを読んでしまう人が多いと思いますが、順番としてはこの「スタイルズ荘の怪事件」を先に読むべきですね。

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