概要とあらすじ
1955年のポアロ長編33作中26作目。
ヒッコリー・ロードにある学生寮で、盗難が次々と起こる。しかしそれらは、片方の夜会靴、安物の腕輪、口紅、聴診器、電球、チョコレート、硼酸の粉末、料理の本などよくわからないものばかり。ポアロがその調査に乗り出した時、それらの一部を盗んだことを告白した寮生が、その夜に死んでしまう…という話。
みどころ
舞台が学生寮で、登場人物たちが若いです。みんな元気で、ワイワイやっている様子は、けんかしている様子も含めて楽しそうではあります。
そんな若者の元気に若干押され気味の、ハバード夫人が面白いです。感情の振れ幅が大きすぎるニコレティス夫人もいいです。いわゆる「ツンデレ」でしょうか。
物語全体的に、活気がある感じがします。
犯人とトリックについて
犯人は意外な人物でした。あっ、そっちかぁ、という感じです。ですが、登場人物たちの整理が追い付いていなかったため、ちょっと驚き切れなかったです。とはいえ再読してみて、うまいこと疑われないようにしているなぁ、とは思いました。
トリックもまぁまぁです。盗難事件とのつながりは、少し無理やり感がありますが、納得できる範囲です。
これって結局、ナイジェル・チャップマンがリュックをズタズタにしているところを、シーリアに見られてしまった。それをごまかすために、シーリアにつまらない盗みをさせて、リュックの件はそれと同じようなことだと、ごまかそうとしたんですよね。違います?
そしてヴァレリ・ホップハウスは、それでごまかせると思っていたのに、ナイジェル・チャップマンが暴走して、シーリアを殺してしまった、ということでしょう。
そして3件殺人が起こるのですが、その3つ目の殺人については、そのトリックを見抜くことができました。これは経験がものを言いましたかね。読んでいて、「これは!」と思いました。
登場人物について
登場人物が多すぎて、整理ができませんでした。相関図を書きながら、再読してようやくそれぞれの人物が把握できたような感じです。
誰が嫌な奴だとか、誰がいい奴だとか、誰誰がこういう性格でとか、それぞれが証言するときに話しますが、正直頭に入ってきません。やはりそういうのは、登場人物同士の絡みで、自然と感じられるものであって、説明されるものではないです。
クリスティー作品って、そういう人間関係のドラマで魅せるところが大きいのです。ですが、「ヒッコリー・ロードの殺人」に関しては、それを説明で終わらせている感じがあって、ちょっと辛いです。
盗難事件
学生寮では盗難事件やそれに関連する事件がいくつかありました。それらをまとめてみました。太字が事件で、その下が持ち主です。
黄色マーカーは、シーリアが関係したと証言したもの
青色マーカーは、ナイジェル・チャップマンが関係したと証言したもの
リュックサックがズタズタに裂かれる
レン・ベイトソン
電球
?
腕輪
ジュヌビエーブ
ダイヤモンドの指輪が盗まれて、スープ皿から見つかる。
パトリシア
化粧用コンパクト
ジュヌビエーブ
夜会靴が片方だけ盗まれる
サリー
口紅
エリザベス・ジョンストン
イヤリング
ヴァレリ・ホップハウス
聴診器
レン・ベイトソン
浴用塩
?
スカーフがズタズタに切られる
ヴァレリ・ホップハウス
ズボン
コリン・マックナブ
料理の本
?
硼酸
チャンドラ・ラル
ブローチ
サリー・フィンチ
エリザベスのノートにインクがかれられる
エリザベス
つまり残った「リュック、電球、浴用塩、硼酸、ノートにインク」の関係性が、事件の謎になります。
ですが、「浴用塩」については、何も書かれていなかったような気がします。これはハバード夫人の勘違いだったということなのでしょうか。
モルヒネの行方
モルヒネの行方が少しややこしいので、まとめてみました。
病院の薬局→整理ダンスの引き出し(ナイジェル・チャップマン)→重曹の瓶に入れてパトリシアのハンカチの引き出し(パトリシア・レイン)→アキボンボが飲む?
この流れかと思わせておいて、実は違っていました。
病院の薬局→整理ダンスの引き出し(ナイジェル・チャップマン)→硼酸と入れかえられ、モルヒネはシーリアの枕元へ
つまり、アキボンボが飲んだのは、入れかえられた後の硼酸でした。そして誰がモルヒネと硼酸を入れかえたのかがポイントですね。
インク事件
結局インク事件は、何のために起こされたのでしょうか。
エリザベスのノートは普通のノートで、犯罪に関係することは書かれていません。ですのでノートにインクをかけて、何か証拠を隠滅しようとしたのではありません。
かけられたインクは緑色でした。緑のインクはナイジェル・チャップマンしか使っていません。だからと言って、インク事件の犯人はナイジェル・チャップマンだ、とはなりません。あまりにあからさまだからです。
つまり誰かが自分に疑いをかけさせようとしているという、ナイジェル・チャップマンの自作自演だった
というのが真相なのでしょう。この辺の説明ってされていましたっけ?
他作品とのつながり
マギンティ夫人は死んだ
「ずっと前に、ある掃除婦が殺された事件で無実の男が危うく犯人にされそうになったとき、この探偵が真犯人を発見してその無実な男をすくったことがあったぜ」
これは「マギンティ夫人は死んだ」、2つ前の作品です。1952の作品ですから、5年前です。学生にとっては、5年前は「ずっと前」でしょうね。まぁ、現実世界とリンクしているかは置いておいて。
「ヘラクレスの冒険」のネメア谷のライオン
ポアロが学生寮の講演で話した内容です。
美しい金髪の秘書と結婚するために自分の妻を毒殺したリエージュの石けん工場主のことを思い出して、その紳士に話したのです…
ここは短編集「ヘラクレスの冒険」のネメア谷のライオンにも語られる内容です。話のオチにもつながりますので、先に「ヘラクレスの冒険」を読んでおいた方が、良いでしょう。
ヴェラ・ロサコフ伯爵夫人
パトリシア・レインと話しながら、ポアロはヴィーラ・ロサコフ伯爵夫人の面影が心によぎります。
「二重の手がかり」「ビッグ4」「愛国殺人」「ケルベロスの捕獲」に出てきます。でも、他作品ではヴェラ・ロサコフ伯爵夫人です。微妙に表記が違うのはどうして?
葬儀を終えて
エンディコット老人が言います。
「例のアバネシー事件では、さんざんあなたのお世話になりました」
この「アバネシー事件」は、1つ前の作品「葬儀を終えて」の事件です。ですが、エンディコット老人ってだれですか。「葬儀を終えて」に出てきた弁護士は、エントウイッスルでしたよね。訳し方の問題なんでしょうか。英語読みとフランス語読みみたいな感じ?
感想
そこそこ楽しめたけれど、もう一度読もうとは思わないかな。登場人物同士の絡みがないわけではないんですが、半分以上尋問で済まされたような感じがします。その分、登場人物たちに思い入れが持てませんでした。
トリックや細かい伏線などは、再読したときに気づくことができます。いろいろ考えているんだなぁとは思いました。まぁ、クリスティー作品としては、中の下という感じでしょうか。
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