1924年の短編集です。
ポアロとヘイスティングズのコンビが、いろいろな事件にかかわるという展開です。ポアロとヘイスティングズが仲良く、時には喧嘩しながらやっているのが微笑ましいです。
私的ベストは「狩人荘の怪事件」、次点は「グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件」です。
〈西洋の星〉盗難事件
女優メアリ・マーヴェルが持つ宝石「西洋の星」。ヤードリー夫人の持つ「東洋の星」とセットで、もともとはある神像の目にはめ込まれていたらしい。彼女たち両方に「その宝石を返してもらう」という謎の手紙が届き…
感想
本編の謎の解決は、なるほどね、というほどほどの意外性です。ポアロが失敗をしているように見せかけて、実はすべてを分かったうえでやっていたというのは、いつものパターンですが、最後にヘイスティングズがめちゃめちゃ怒っているのが面白いです。
とはいえ「当分のあいだ、ぜったいに許さないぞ」という、期間限定なのが笑えます。
マースドン荘の悲劇
多額の保険金をかけたマルトラヴァーズ氏が亡くなった。保険会社から依頼を受けて、その死に疑わしいところはないのかどうかポアロが調査を開始するが…
感想
ポアロものでは珍しく、霊的な描写があります。気分が変わってたまにはこういうのもいいですね。とはいえ、結果を知ってから思い返すと、あまりにも医者が無能です。クリスティーの時代なら、そういうのが普通なんですかね。
安アパート事件
アパートを探していたロビンソン夫妻。周囲の相場よりはるかに安い金額の物件があったので向かったところ、その場で先に来ていた友人のミセス・ファガーソンと出会う。彼女が言うには、もうすでに借り手が見つかった後らしい。ダメもとで話を聞きに行くと、なんとまだ借り手が決まっていないという。とりあえずよかったと、契約をしたのだが…
感想
なぜそんな安い金額で貸し出されていたのかなどの、アパートにかかわる謎はすっきり解明されました。ですが、そのあとの国際陰謀にかかわるドタバタはあまりに急展開で、少しついて行けませんでした。
狩人荘の怪事件
叔父が殺されたと電報を受け取ったヘイヴァリング氏。ポアロに一緒についてきてくれるように頼むが、ポアロはちょうどインフルエンザが治りたて。そこでヘイスティングズがポアロの代わりに、ついて行って、調査を開始するが…
感想
電文でのポアロの指示が面白いです。
シツナイノシャシンナドトッテ ジカンヲムダニスルナ
この部分は笑いました。怪しい人物は丸わかりですが、その真相には驚かされます。たしかにそのような伏線がありました。面白かったです。
百万ドル債権盗難事件
百万ドルの債権が輸送中の船の中で盗まれ、輸送責任者のフィリップが疑われた。フィリップの婚約者であるファーカーは、この事件をポアロに依頼する…
感想
いかにも怪しい人物が怪しい行動をするので、犯人はすぐにわかります。あまりにあからさまなので、ミスリードかと疑いましたが、そうではありませんでした。部分的には「ナイルに死す」のプロトタイプでもあるかと思いました。
エジプト墳墓の謎
エジプトで墓室を発見したジョン・ウィラード卿が心臓発作で亡くなった。二週間後、一緒に調査していたブライナーが敗血症で亡くなり、さらに数日後、ブライナーの甥が拳銃自殺をした。果たしてこれは「メンハーラ王の呪い」なのか?…
感想
ポアロが船やラクダに参ってしまうところや、オカルトを信じて(いるふりをして)バタバタする様子が面白いです。アヌビス神の姿をした誰ががテントに入っていく描写は、「死との約束」のあるシーンを思い浮かべました。
グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
オパルセン夫人の宝石が盗まれた。オパルセン夫人のメイドか、ホテルのメイドかのどちらかが盗んだように思われるが…
感想
メイド同士の言い争いが笑えます。お互い母国語が違うので、言っている内容は分からないけれれど雰囲気でわかるというのが面白いです。部屋の見取り図もあり、本格推理の味わいもあります。ちなみに、私の犯人の予想は外れました。
首相誘拐事件
イギリスのマカダム首相が誘拐された。連合国の会議がヴェルサイユで行われるのだが、それに首相が出席できないとなれば、大変なことになる。会議がの開始まであと24時間。ポアロは事件を解決して、無事首相を会議に出席させられるのか…
感想
デッドラインがあるので、割と緊迫感がありました。トリックとしては、よくあるやつですが、その緊迫感に騙された感じです。最初の襲撃事件の伏線の謎も解明されて、収まるところに収まっている感じです。
ミスタ・ダウンハイムの失踪
銀行の頭取のミスタ・ダウンハイムがいなくなってしまった。そして彼の自宅の金庫から、債券、現金、そして宝石類がなくなっている。その時仕事の用事で来ていた、ロウエンという人物が怪しいが…
感想
うまくまとまっています。そこに考えは至りませんでした。確かに事前にヒントはありました。うまくカムフラージュしているなぁ、という感じです。ポアロの的を外したような質問が、ちゃんと本質をついている流れも見事です。
イタリア貴族殺害事件
ドクター・ホーカーがポアロと話をしているとき、ホーカーの家政婦が慌ててやってきた。家政婦が言うには、フォスカティーニ伯爵から「助けて。あいつらに殺される」と電話があったそうだ。ポアロ達が駆けつけると、フォスカティーニ伯爵は後頭部を強打されて死んでいた…
感想
医者の所に電話がかかってくるのは、「アクロイド殺し」を思わされます。カーテンのくだりはなるほどと思わされました。結果を知ってから犯人がやった作為を思い返すと、ちょっとかわいいです。腹パンパン!
謎の遺言書
ミス・マーシュの叔父アンドルーが残した遺書は「死後一年の間は家と家財道具を好きにしていい。しかしその期間が過ぎると、全財産は慈善団体に寄付する」という、不思議なものだった。おそらく家のどこかに、高額の小切手か第二の遺書が隠されているのだろう。その謎にポアロが挑戦する…
感想
オチはなんというか、正直拍子抜けという感じです。ですが、「どんな時も専門家に任せるべき」「すぐにこの問題をぼくに任せたことによって、機転が利くことを証明した」というのは、なかなか含蓄があります。ヘイスティングズは納得がいっていないようですが。
ヴェールをかけた女
レディ・ミリセントはミスタ・ラヴィントンから脅迫されていた。彼の手から中国製の箱に入れられて、慎重に隠された手紙を取り戻したい。その依頼にポアロが応える…
感想
意外な隠し場所はなるほどね、という感じ。犯人が本性をあらわす直前のポアロとのやり取りが面白かったです。ちょっと話が強引な気がしないでもないですが…
消えた廃坑
鉱山の位置を記録した書類を持つ中国人ウー・リン。商談のためにイギリスにやってきたが、役員会に顔を見せなかった。そして後日ウー・リンはテムズ川で死体となって発見され、その書類はどこかに消えてしまった…
感想
ポアロとミスタ・ピアソンが現場に乗り込むところは、なかなか愉快な場面でした。「投資をするなら安全確実な株にしておけよ」というポアロの忠告が、今と変わらないのが面白いです。
チョコレートの箱
フランスの有力な代議士ムッシュ・デルラールが夕食後に急死し、心臓麻痺と診断された。それに疑いを持った従妹マドモワゼル・ヴィルジニーがポアロに再調査を依頼する…
感想
ポアロが真相を見誤った珍しい事件。チョコレートの箱が真相の鍵でしたが、確かにポアロが言うとおり、ちゃんと確認していれば正しく真相をつかめていました。長編でじっくり読みたいような話でしたね。
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