ヘラクレスの難事業にちなんだ12の難事件を、ポアロが解決するという短編集です。全体的に軽い話が多いので、楽しく読むことができます。ガチで犯人を突き止めようなんてせずに、ポアロの活躍を楽しむ感じで読むのがいいでしょう。
私的ベストは「ディオメーデスの馬」です。
ネメア谷のライオン
あらすじ
サー・ジョセフの飼い犬のチンが誘拐されたが、身代金を払ったら返ってきた。しかしいったい誰が何のためにそんなことをしたのだろうか。その真相を突き止めてほしいとポアロに依頼をするのだが…
感想
犬の様子が想像できて、かわいいなとか、おりこうだなとか、そういう思いがあります。特に犬好きにとっては、ほんわかする一編でしょう。
結末が予定調和で強引な印象がありますが、読後感はまぁまぁです
レルネーのヒドラ
あらすじ
医師であるチャールズ・オールドフィールドは人殺しをしたという噂を立てられていた。それをどうにかしてほしいと、ポアロに依頼をする…
感想
噂の発信源を探っていき、真相を突き止める手腕は見事です。これは短編なので少し荒いですが、もっと複雑にして長編にしても行けそうなテーマです。とはいえ、長編の「カリブ海の秘密」が同じテーマを含んでいましたが、それよりもこちらの方がうまくいっているような気もします。
結末はいつものクリスティ節ですが、そうなら噂を立てられてもしょうがないよな、と思いました。
アルカディアの鹿
あらすじ
テッド・ウィリアムソンはバレリーナの付き添いの女性に、一目で恋をしてしまった。しかし彼女は彼に一度会ったきりで、どこかに行ってしまった。彼女はなぜ彼に何も告げずに行ってしまったのか。そして今どこにいるのだろうか。
感想
行方を追って、いろいろなところを聞き込みに行って、思わぬ結末に行き当たる。それで終わりかと思わせておいて、そこからさらに意外な真相がわかる、という展開。なかなか楽しめました。
映画「スウィート・ノベンバー」と比べて、結末がどうなのかなぁ、と思いました。ポアロ、おせっかいじゃないの?
エルマントスのイノシシ
あらすじ
標高一万フィートにあるホテル、ロシェ・ネージュにて殺人犯人のマラスコードとその一味が会合するという情報が入った。ポアロはすでに潜入しているドルエ警部と協力して、彼らを捕まえようとするのだが…
感想
話が入り組んでいて、何回か読み直さないと何が起こっていたのか、よくわかりませんでした。よく読むと話の筋は理解できましたが、今度は登場人物の行動に理解ができなくなります。特に支配人。ポアロもですが。
美女に拒絶されて、しょんぼり肩を落とすシュヴァルツ氏が面白い。
アウゲイアス王の大牛舎
あらすじ
人気の高かった元首相のジョン・ハメットに対するスキャンダルが週刊誌に掲載される予定になっていた。なんとかこれを封じ込めたいのだが、果たしてどうしたらよいのだろうか。
感想
話としてはまぁまぁ面白かったですが、ポアロにはこういうことに携わってほしくないなぁ、という印象です。
めでたしめでたしという結末ですが、これってどうなの?
ステュムパロスの鳥
あらすじ
エルジーは虐待を受けていた夫のフィリップを殺してしまった。ハロルドはそれをなんとかもみ消そうとするが…
感想
読んでいる途中でオチがよめてしまいましたが、きれいにまとまったかな、という印象です。無知は罪である、という教訓が得られる話です。
クレタ島の雄牛
あらすじ
突然婚約破棄をされたダイアナ。婚約者のヒューは、自分が気がくるいかけているというが、彼女としては、そうは思えない。いったい何がどうなっているのか…
感想
ダイアナのキャラがいいですね。最初のポアロとの会談の描写がとても面白い。このわずかな登場人物の中で、意外な犯人的なものも味わうことができます。
テーマはクリスティの小説でよくあるやつです。時代なんでしょうけれど、今読むと少し嫌悪感があります。結末もあまり好きじゃないです。捕まえて警察なり病院なりに、入れてあげてくださいよ。
ディオメーデスの馬
あらすじ
あるパーティでコカインを使っていた様子。誰がそこにコカインを持ち込んだのか?
感想
シーラがかわいい。コカインを吸うのはこれっきりにしなさいよ、といわれて、「ええ、そうしようと思うけど…でも、ちょっとすてきだったわ」なんて言うところ、微笑ましいです。
勧善懲悪で、最後はハートウォーミングと、後味の良い話です。
ヒッポリュトスの帯
あらすじ
盗まれた絵画を取り戻してほしいという依頼を受けたポアロ。それと同時期に、列車から蒸発した少女ウィニー。しかしウィニーは、全然別の場所で無事発見される。いったい何があったのか…
感想
ウィニーが蒸発した事件に関しては、丁寧に読めばいなくなった場所が書かれてあるので、そこから真相がつかめそう。
そもそもこの子たちは、学校に入学するために電車に乗っていたんですね。そこを雑に読んでいて、修学旅行かなにかと勘違いしていたので、考えがずれていました。
最後、少女たちにサインを求められるポアロが面白い。
ゲリュオンの牛たち
あらすじ
数年前に夫を亡くし、莫大な遺産を相続したエミリン・グレッグは、「羊飼いの信徒」という宗教団体入り浸っていた。彼女のことを心配したミス・カーナビは、ポアロに相談するのだが…
感想
ネメア谷のライオンで出てきたカーナビが再登場。大活躍します。というか、無茶させ過ぎです。
新興宗教って怪しいよね、という話が、クリスティの時代に言われているのも面白いです。時代がたっても、人間の本質って変わらないと思わされます。
ヘスペリスたちのりんご
あらすじ
財界の権力者、エマリー・パワーはルネッサンス時代の金の酒盃を競売で獲得したのだが、実際に手に入れる前にその酒盃が盗まれてしまった。そしてその酒盃はその後十年間も表に出てこない…
感想
十年間も酒盃が表に出てこないということから、消去法で場所を探し出すという考え方は面白かったです。
イニッシゴーランの風景描写が素晴らしい。
ケルベロスの捕獲
あらすじ
ロサコフ伯爵夫人が経営するナイトクラブで、麻薬の取引が行われているらしい。どのように行われているのだろうか…
感想
ミスレモンとポアロのやり取りが面白い。「地獄」に関するやり取りなんか最高です。
ポアロの恋愛的な要素があって、それも面白いところです。
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